side――ダミアン6
子供が出来た。そう子供である。
私に子供が―――・・・・・・。
跡継ぎが生まれないと問題視され、教会へ多額の寄付を投じていた我が家に。冷遇どころか廃絶にまで追い込んだ私の下に。
子供が出来た。
愉快、痛快、どころではない。
ただただ言葉になり得ぬ途方もない感情が押し寄せた。
嘘だったじゃないか! という感想が第一に。
私の行いは間違ってなかったのだ‼ という実感が次いで。
このことを知らしめねば‼‼ という使命感が湧いた。
逸っている自覚は在った。
しかし、世界が証明した以上。留まることに意義などない、そう思わせた。
なにより、生まれてくる子供のため。
より正常で、より正確で、より正当な世界を作り上げなければ!
そんな思いに突き動かされた。
そして、もう1つ。
彼女に本当の笑顔が戻った。
新しい命に対する祝福か、確かな絆への期待か。
それがなんであれ、私にはどうだってよかった。
彼女の笑顔が全てなのだ。
それが曇らないよう―――努めることこそ、我が人生。
早急な整備が必要であった。
やるべきは宗教の選別。
加護の教えは私達には不要だが、世界的に根絶することは難しい。不可能と言っていい。
だから、その思考に染まらないための防壁を用意しなければならなかった。
要は加護教が如何に間違っているかを認識出来ればそれでいいのだ。
どこがおかしいのか、自らで判断できれば寄り付くことはないだろう。
そう思い、選別したのが望福教と名乗る集団だった。
ハッキリ言おう。
望福教の理念は間違っている。
心から望めばどんなものでも手に入る?
そんな言葉は耳障りの良い戯言だ。
でなければ、現実に降りかかる全てが。自らの望んだ結果だということになってしまうではないか。
けれど、私も。彼女も。こんな現実を望むはずがない。
試練というには、あまりにも残酷ではないか。誰にも信じてもらえなくなるだなんて。肉親にさえ裏切られるだなんて。あんまりではないか。
それが愛を育んだなどと、宣われたなら殺していただろう。
幸いにも、この相手はそのような言葉を口にすることはなかった。
この者達はただ、幸福になる術としてのみ望福教を称賛した。
不利益はないと。今からが変わるのだと。過去には触れずに。あくまでも未来だけが変わるのだと。
あまりにも都合のいいことだ。
とはいえ、私にとっても都合のいい条件が揃っていた。
例えば現行の教会への態度。
明確に敵対するのは他では不都合かもしれないが、私に限れば好都合。
信者の内実もそうである。
加護Lvの低いものばかりを囲っている。
そういう者達ばかりに夢を見せているのだから当然ではあるが、他所では厄介者として扱われるだろう。だが、我が領では臭い消しに最適だ。
加護教廃絶は緩やかに行っているが、それでも。領民の減少は免れない。その補充にもなるだろう。
問題は予想以上に根付かれた時だが・・・領民が手の平を返す様は着服の件で嫌と言うほど目の当たりにしている。
信じるには杜撰な宗教だ。是正するのは容易いだろう。
であれば、使わぬ理由もないか。
そうして、私は使われなくなった教会へ、新たな宗教を招き入れた。




