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side――ダミアン4

 彼女の犠牲によって成功したともいえる新薬の開発。それを基とした爵位の繰り上げ。それを認めてしまっては、彼女の犠牲が正当化されてしまう。

 だから私が領主になり、それを辞退する必要があった。


 勢いあまって簒奪と言ってしまったが、正当に継承するべく説得も試みた。何も、初めから対話を諦めていたわけではない。しかしながら、結論を言う。意味などなかった。

 父にも、母にも、祖父母にも。

 言葉など通じなかった。まるで、全く未知の言語を使っているかのように。


「私達がなぜ今までこうして血を絶やさずにいられたか、忘れたか⁉」

「下賤な女に騙されたのね⁉⁉ 大丈夫よ‼‼ まだ間に合うわ‼‼」

「信仰を捨てちゃぁならん‼ いいか⁉ 信仰によって救われてきたのだ‼ それを理解しろ‼」

「ああ⁉ 寄付よ‼ 寄付しなくちゃ! 大丈夫‼ 大丈夫だからね‼‼ 必ず幸せになれるわ‼‼ 神様は失敗も許してくれるから‼‼ そのために寄付があるんだからね‼‼」


 誰も。

 彼女を、現実を受け入れようとはしなかった。

 被害者である彼女を。さも悪の権化であるかのように・・・・・・。

 信仰とは、ここまで人の心を醜くできるものなのかと。今までを振り返り、神に感謝していた日々ですら、吐き気を催すほどのものとなった。


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。そんな言葉があるのだそうだ。

 教会に、加護教に、その女神に。

 関わる全てが許せなくなった。


 たった1人。

 敬虔な信徒であったリーリャさえ救えぬ癖に。

 間違いも正せず、真実も告げられぬというのに。


 何が神か‼‼

 何が教えか‼‼‼

 救いなど‼‼ どこにある‼‼‼


 彼女の心に光なく、彼女の顔に笑顔は戻らず、彼女の涙に価値さえ認めず、それでいながら遍くを見通すだと⁉⁉ 悉くを見渡すだと⁉⁉

 ふざけるなよ‼‼‼


 領主の地位を奪い取るのは簡単だった。

 教会の不正を暴くだけで良かったからだ。


 領主からの過度な寄付金。

 1年や2年ではない。数代にわたっての莫大な献金。

 霞と消えるには余りにも膨大すぎた。


 教会は清貧を良しとする。

 ならば、その金はどこへ?


 決まっている。着服している奴がいた。

 司祭や司教、遠くは他領の修道女まで。


 あれだけの金額を寄付していながら、豪華とは言えない礼拝堂や周辺施設を見て疑問には思っていたのだ。ただ、盲信ともいえる信仰心がそれを見ないようにさせていた。

 しかしその心が失われれば、いともたやすく突き崩せる砂の楼閣。


 これを公にし、還元するはずの税を不当に偏らせ、本来多くの領民が享受できた金額や支援を明確にするだけで、私は領主となった。

 同時に。

 糾弾された関係者はその地位を追われ、空席となったそこへは私に都合のいい人材を宛がった。そう難しくはない。多少、能力や評価が劣るものを唆すだけだ。要らなくなったらまたすげ替える。それだけだ。


 聖職者などと。皮一枚剥げば欲望に塗れた人間に変わりない。

 格も、得も。言葉ほどのものではない。

 少なくとも、私の知る限りは、リーリャこそが最も秀でていたのだから。

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