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上がる狼煙が呼ぶものは10

「何様だ? そんなことはてめぇらの教祖にでも聞けばいい。神を名乗ってるのはそいつだけだ。それに、俺は幸福の定義について話しただけだ。その最たるが”何か”のためであって、その”何か”が『何なのか』までは知ったこっちゃねぇよ。自分のため? 結構じゃねぇか!」

「ならばッ! ならば、なぜ‼ 私だけが許されない⁉ 私の思想、行動のみが否定されねばならん⁉」


「簡単なことだろ? 夢を見すぎたんだよ」

「夢を・・・? どういうことだ⁉」

「幸福ってのは一時の感情だ。永遠じゃない。てめぇの幸福はもう、終わったのさ」

「だ、誰がそのようなことを決められる⁉ 何の権利があって⁉」

「誰にもねぇよ。そんな権利なんざ。なのに、てめぇは奪っただろ? 人の幸福を・・・だから、てめぇも奪われるのさ。自分勝手な幸福のためにな」


「この簒奪者めが‼‼ そうであるならば、誰が教祖様のことなど―――」

「いいのか? どうせ誰も来ねぇんだ。喉が潰れるまで痛みにのたうち回ることになるぞ?」

 安易な方法ではあるが、拷問ってのは効率的な手段だ。

 どんな人間だろうと、苦痛には慣れ得ないからな。


 だが、それを聞いて領主はポカンとした表情を浮かべ、

「ふ、ふはははは! 本気で言っているのか⁉⁉」

 かと思えば自身に満ち溢れ笑い出す。


「あの仕掛け! アレはわざとではなかったのだな‼‼ 実に滑稽だ‼‼ あれほど勝ち誇っておきながら、詰めを見誤るなど‼‼ ああ! 正に‼ 神は私を見放さず、だ‼‼‼ ふははははは‼‼‼」

 なにを・・・と聞くまでもなく。


 ドドドドドッ‼‼‼ と、地響きが駆ける。


 明らかな異常事態。

 それが壁越しに通り抜けるのを実感すると同時。屋敷内が一気に騒がしくなる。

 悲鳴のような、怒号のような、そんな声が木霊する。


 そして思い出す。ここが1階だったということを。

 だとしても、何が通り過ぎたというのか?


「わからんという顔だな。阿呆め‼」

 わかりやすく調子付いた領主が語る。


「この都の市民共はマーモウの煙を吸い続け、その感覚に依存しているのだ‼ それが幸福の正体だと知らせてやったのだから当然だ‼ 仮初の幸福? こうまでして求めていてもか? 勝手に講釈を垂れ、押し付けていたのはどっちだ⁉ 奴らはこの屋敷の異常を見て押しかけて来た‼ マーモウの煙がなくなっては幸福が得られんからな‼」

 はははははは‼‼‼ と高嗤いながら。


 どうやら、結界に付随させた火事の煙がこの都の市民を呼び込んだようだ。

 さっきの割れんばかりの地響きはそれが原因か。

 騒ぎになっているのはその市民達が警備と衝突でもしたからだろう。

 そうなれば、直ぐにでも人が来る。


「ヨハン。上の罠を回収してこい」

「え⁉ でも先生‼ いいんですか⁉」

「ははははは‼‼ そうだろうな‼‼ もはや、貴様らには逃げることしかできんのだ‼‼ 何が痛みにのたうち回ることになるだ‼‼ 戯言を‼‼」

 ふざけたことをぬかす領主の胸ぐらを掴む。


「なんだ? 殴るつもりか? その程度では、何の解決にもならんがな‼」

「てめぇも連れていくんだよ」

「なにっ⁉ 放せ‼ いいや! どうせ逃げることもできん‼ 諦めろ!」


「ヨハン。お前は先にこの屋敷から離脱しろ。見知った顔が死ぬところは見たくねぇだろ?」

「それって⁉⁉」

「おい! どういう意味だ‼‼ 何をする気だ⁉」


「てめぇの幸福は領地経営を評価され、地位や名誉を手に入れることだろ? それを塵も残さず消すんだよ。その工程を目に焼き付けさせてやる。なにか言いたいことがあれば聞いてやるよ。手を止めるつもりはねぇがな」

 苦痛とは、身体的な痛みだけを言うわけじゃねぇ。


「待て‼‼ そんなことが許されると思っているのか⁉⁉」

「許しを請うのは俺じゃねぇだろ? 精々救われるように祈ることだ。教祖様とやらにな」

 いいながら、ヨハンに目で訊く。

 どうする? と。


「いえ――・・・正直に言えば、覚えてないんですよ。この場所でお世話になった人達の顔っていうのを。だから、大丈夫です」

 それが気を使った嘘なのか、あるいは―――。

 俺にはもう、その判別を付けることはできなかった。

 ただその言葉を受け入れることだけが、信頼の証となることを願った。


「そうか・・・・・・なら、皆殺しの時間だ」

 喚く領主を引きずって、俺達は外を目指す。

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