動かす時
しがみついて涙を流すユノを、俺の腕は抱いてやれずに。不自然に宙へ浮いた手が、行き場を失くしてぶら下がる。
まるで、今の俺自身を映すかのように。
「ゼネス様ッ‼ お爺様が――‼」
「あぁ、聞いた」
「私がッ! 私が気付いていればッ―――‼」
「・・・仇は討つさ。そう言いに来たんだ。それより、こんなところに居ていいのか?」
思いつめようとするユノの肩を掴んで引き剥がし、落ち着かせるため屈みこんで視線を合わせる。
「それは・・・・・・ゼネス様こそ。どうして、こちらへ?」
「なんとなく、ここへ来たら会えるんじゃねぇかと・・・そんな気がしてな。そんなことがあるわけなかったが」
「私も。ここに居るとお爺様が呼びに来てくれるんじゃないかなんて・・・おかしいですよね。そんなはずないのに・・・だって、お爺様は―――」
当然、ユノはグレアムの死体を確認したはずだ。その後も。
それを誤魔化すように話を逸らす。
「その首飾り。爺さんからもらったのか?」
「・・・これですか? はい。ゼネス様が帝国へ行く日に。私へって―――もしかして、私へというのはお爺様の・・・?」
「―――いや、爺さんにそんな首飾りが似合うわけねぇだろ? なにより、趣味じゃねぇよ」
俺はすかさず真実を捻じ曲げる。
爺に飾り物を送る趣味なんざねぇと、笑い話にする。
同時に、
「それがどういうものかは聞いたか?」
その効果を知っているかの確認まで済ませる。
「ゼネス様の手作りだと言うことは聞きました。なにか、あるんですか?」
「試作品だっていうだけの話だ。簡素だろ? いつか、もっといいのを作るつもりだったんだ。爺さんに渡したのは、助言でも貰おうかと思ってな」
「そうでしたか。お爺様ったら贈りものだなんて言って・・・預かり物じゃないですか」
「気にするな。回収するつもりも無かったんだ。贈り物でも間違いじゃねぇよ。ただ・・・―――」
「ただ・・・?」
「ああ、いや。贈り物として扱われるなら、もう少しぐらい意匠には拘ったのになってだけだ」
曖昧に笑ってごまかす。
こうなりゃ効果のことを話す必要はない。
余計な後悔を生み出すだけだ。
加護を与える首飾り。
もしそんなものを爺さんが肌身離さずに持っていれば、こんな事にはならなかったんじゃ―――なんていう、後悔を。
弱い俺の心と同様の思いを。
爺さんは首飾りに俺のギフトを付与してあることを知っていた。
それをどんな気持ちで孫娘に渡したか。
邪推するまでもない。
そこに俺の汚れを持ち込むなんざ論外だ。
幸せを願っていた。
その純粋な思いを、穢してはならない。
だから嘘に塗れるのは俺だけでいい。
爺さんの思いは確かに、純粋だったはずだから。
「それで・・・一足先に挨拶をしておきたいんだが、出来るか?」
「・・・はい。こちらに」
競り上がるわがままを飲み込んで、大人しく対応する。
ユノを曇らせるような真実は、もう要らないんだ。




