何がそこに待っているか
「失礼します」
そう言って入って来たのは御父上ダンデ将軍。
「遅いぞ。将軍」
「ハッ! 陛下! 申し訳ございません!」
「これほど遅れてきたのだ。朗報ぐらいはあるのだろうな?」
「残念ながら、予定通りかと」
「やはり、そう上手くはいかんか」
遅れて現れた御父上を嗜める陛下だが、その言葉に本気はない。
軽い冗談のつもりだろう。
「では陛下? 将軍様をお越しのようですし、その予定とやらを説明いただけますか?」
「そうせいてくれるなマーラグ公爵。どうせ、長い話にはならん」
「それは軍の人員不足のせいですか?」
「その通りだ。公爵。軍を預かるのもとして謝罪しよう。東の貴族達の動向を読めなかった私の落ち度だ」
「それは言っても仕方のないことでしょう。そんなことより、今は当面の策をどうするかが重要なのでは?」
ジーナは御父上の謝罪を無駄と切り捨て、予定を聞き出す。
「当面は防衛態勢を取ることになるだろう。その理由はさっきから既に話題となっているが、軍の人員不足による部分が大きい。そうなった原因は北の帝国への警戒だが――そちらの問題は解決した・・・ということで構わないか?」
「しばらく危険はないかと」
「しばらくというのは、いつまでのことだ?」
「少なくとも。内乱を収めるまでは大きく動くことはないでしょう」
「それ以降は?」
「保証できかねます」
「では皇都軍のみの動員となるか。北の睨みを切らさぬよう辺境伯へは伝えておこう。該当者達には悪いが、とんぼ返りのような状態で内乱へ干渉してもらうことになりそうだな」
御父上の言葉で思い出したが、そういえば兄上にも謝っておかないとな。
待機してくれていたのに結局は放置する形となり、帰りの挨拶もしていなければ、礼の1つも伝えていない。
まぁ、それもやることをやってからだが。
「現在の動員可能な人数と合流する人数。それと具体的な防衛策はどうなっているので?」
「皇都に残っている数は約5千。合流予定も同じく5千。具体的な防衛策はまだ煮詰まっていないが、ルーヴェント領は皇都にほど近い。間にいくつかの町村も存在するが、そこで迎え撃てば住民が疲弊することは明白。ならば、敵の行軍距離を延ばす方面で考え、アスクレ岩床地帯付近に防衛陣を敷いて合流までの時間を稼ぐ方針となった」
「目と鼻の先すぎないか? 万が一にも突破されようものなら・・・」
「その場合には皇都外壁の扉を閉めての籠城戦となる。合流部隊が到着と同時に参戦することとなるが、逆に考えれば内外での挟み撃ちが可能になるということでもある。練度の高い連携は取れないかもしれないが、悪い作戦ではないだろう」
「それは敵軍の数によるのでは? どれぐらいの予想をしているのです?」
「今回反旗を翻した貴族家は6。大小有るが領軍の合計は2万弱程度。そこから遠征できる数となれば、半分の1万前後を予想している。多ければ1万5千か。いずれにせよ、全軍で攻めてくるなどということは想定しなくとも良いだろう」
その後もジーナからの細かい質問に御父上が答えていく。
御父上の言っていることは至極全うだとは思う。
数が少ないから攻勢には出ない。
国民のことを考え、町村の付近ではなく、今は使われていない岩礁地帯に防衛線を敷いて時間を稼ぐ。
敵の数が多ければ多いほど、行軍には時間と金がかかるし、それを維持させることで相手の勢いを削ぐ作戦も、単純だが覆しずらい。
最悪に備えて皇都の防御を固めることも想定し、合流組には酷だが即参戦も視野に入れた挟み撃ち。
完璧や最高というような作戦ではないが、堅実で無難な所だろう。だからこそ攻めづらいはず・・・。
だが―――どうしてだろうか?
なにかが引っかかる。
なにか、とてつもなく重要なことを見逃しているような。
・・・そんな気がした。




