再会
ゆっくりと皇都の表通りを歩くのは十数年ぶりだった。
「案外変わらないもんだな」
皇都を縦に割る大きな道に並ぶ顔ぶれは相変わらず、変わったのはせいぜい看板くらいだろう。いくつか真新しいものが混じっていてそこに違和感がちらつく。それでも懐かしさはそこかしこにありふれていた。
商会ギルドから冒険者ギルドに向かうにはこの大通り沿いに行くのが一番早い。それぞれ役割のために町の中心と外壁近くの広場前に設置されているから微妙に距離があるのだ。商会ギルドは商品の確認から流通をスムーズにするため中央に。冒険者ギルドは緊急時の招集・出撃、その他討伐モンスターの運び込みを楽に行えるように外壁近くに設置さているらしい。
そんな訳でおのぼりさんよろしく周りを見ながら歩いて行くと、大きな広場に到着だ。この広場は冒険者ギルドの設置されているそれじゃない。市場が開かれている大きな広場で位置的には街の中心により近い。その中には屋台もあり、そこで腹ごしらえでも・・・と思ったところで気付いた。
「しくじったな」
サンパダとの会話のせいですっかり抜け落ちていた。
サンパダのギフトについて・・・そして、噂の真相だ。
まぁ、ギフトについてはあの場で聞いても話せなかったかもしれない。それはいいとしても、噂の方はちゃんと確認しておくべきだった。そのせいで市場の値段相場が適正か分かりにくい。
一応、この辺りでは見ない魔物が出たとのことだったが・・・
ざっと見回ってみたがここ最近の皇都の相場がわからない以上、正確なことはわからない。南からの物資の値上がり以外はそれほど変わってないようだが・・・すでに討伐されたのか?
そんな事ばかり考えていると”グゥ”と腹の虫が騒いだ。
見回った時に気になった出店の内どれにするか? と真剣に悩もうとした矢先、
「ゼネスお兄ちゃん?」
すれ違いざまに声が聞こえた。
振り向いた先にいたのは、
「・・・・・・ミリーか?」
「正解! よくわかったね!」
昔からどこかあか抜けない女の子がいた。
名前はミリー。冒険者ギルドの近くに住んでいたはずだ。
「あんまり変わらなかったからな」
「それはバカにしてるのかな?」
別にそんなことはないし、昔から芋くさい村娘みたいだなんて思ってなんかないさ。だが、
「今日は休みか?」
話題は変えさせてもらおう。笑顔に隠したつもりの怒りが漏れすぎだ。
「お昼休みだけど・・・なんで?」
「いや・・・働き者だったお前が昼から市場にいたから、な?」
「なに? 急に・・・褒めてもなんにも出ないよ?」
「そいつは残念だ。なら昼のおすすめはあるか?」
「もちろんサイコロ串肉サラダパンだよ!」
そういえば昔からの好物だったな。
後、話はうまくはぐらかせたようだ。
「じゃ、昼飯にしますか」
「やった~‼ おごり⁉」
「・・・ま、仕方ねぇか」
派手に喜んだあと、その表情のままに形だけおごりかどうかの確認はずるいと思うんだ。断れないだろう。
「いつ帰ってきたの?」
「ついさっきだよ」
パンを買い、さっきの大広場から外壁よりの広場に移動しベンチで頬張る。
「そっか! タイミングよかったんだね」
「そうだな。おかげで昼飯代が浮いたんだもんな?」
「まぁね~!」
同じようにパンに噛り付きながら、
「でさ、気になってたんだけど・・・・・・ひとり?」
おそらく市場にいた時から周りを確認しての問い。
「・・・あぁ。一人だ」
「なにかあったの?」
「なにもなかったのさ。なんにもな・・・」
「ふーん・・・?」
分かったような分からないような返事を残し、沈黙が場を支配した。
しばらくして、ムシャムシャッ‼ とミリーがパンをかきこむと、
「ワタシ今、冒険者ギルドの受付やってるんだよね!」
立ち上がり、胸を張り、手を当てて、自慢する。
「ご依頼があれば承りますが・・・いかがなさいますか?」
フフーン! と聞こえてきそうなドヤ顔が鬱陶しい。
俺はパンを・・・かきこむのを諦めて手に持ったまま立ち上がり、
「ならまぁ・・・いきますか」
もう目と鼻の先となった古巣の冒険者ギルドへ歩く。
それを受け、得意顔に喜色を加えてスキップ交じりで先を行く少女に引退を伝えたらどうなるか・・・。考えるだけで少し楽しくなるのはたぶん、俺の悪いところだ。
「えぇ⁉ 引退って⁉ なんでよぉおおお‼」
やーっと引退する話