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貫く怒りが突き刺すものは。

「そもそもの話。根底がおかしいんじゃない? 精神操作があれば、乗っ取りなんてしなくても、相手を思いのままに操れるんでしょ? なのに、なんでわざわざ欠点を抱えた方法を使ってまで、そんなことをするのよ?」

「精神操作には限度がある。元の人格から外れ過ぎた命令は遂行されねぇし、不意に解除される恐れもある。どれだけ時間を掛けようが、どれほど手間を掛けようが、他人を意のままに動かすなんざ不可能なんだよ。よく知ってるだろ?」


「・・・だったら! 複数人同時に精神を乗っ取ればいいじゃない‼」

「意識を2つに分けることはできない。それがどんな生物であっても、動かせるのは自分自身だけだ。だから何人を乗っ取ろうとも、同時に動かせるのは1人だけ。こんな効率の悪いことをする奴がいるか?」


「なら、最初から王様として国を立ち上げれば、中途半端に混乱を引き起こして交代なんて面倒なことをしなくて済むんじゃないの⁉」

「一代でやるには人間の寿命は短すぎる。子供が出来たから乗り移る、なんてことしたところで。抜け殻になった王は健在。もしくは死んだとしても、生まれたばかりの赤ん坊じゃぁ何も出来ねぇわな? どれだけ脇を固めても、自身に能力がなけりゃ防げない問題はある。王位を継承するまでの政を誰が受け持つか、その内容、他にも自身の身の安全とかな。子供が育ってから~だと、豹変問題はなくならねぇ」


「まるで見てきたように言うじゃない?」

「てめぇこそ、まるで経験してきたように納得するじゃねぇか?」


 もし、同じ条件で望む組織を作るなら。

 先頭に立って目立つような真似はしない。

 如何に乗っ取りが能力として優れようとも、それがバレれば効果がないからだ。


 では理想とは何か?

 頂点へ君臨しつつも、けれど正体を明かすことはなく、それでいて実際の先導者を操る存在になること。

 その上で、機を見て実際の先導者の身体を乗っ取る。力を継承した! とでも謳ってな。


 現状、それに限りなく近いのが望福教という組織と竜の眼の存在だ。

 ここまでの問答は失敗してきた過程の紹介に違いない。

 これが完成形だと、自慢でもしたいんだろう。


 だが、そんなことはどうだっていい。

 毛ほども興味がねぇ。


 俺が知るべきはただ1つ。

 精神を上書きし、身体を乗っ取る条件だ。


「ねぇ、待ってよ‼」

 唐突に声を上げたのは固まっていたカーナ。


「・・・それこそ。まるでお姉様が身体を乗っ取られてるみたいな・・・」

「だからそう言ってるだろ。アレはお前の姉じゃねぇ。模造品の劣化複製品とでも言うべき代物だ。なんなら、人でさえねぇよ」

「人じゃないって、そんな・・・じゃあいったい、なんだって言うのよ⁉」

「竜だ。負け犬のな」


「ややこしく言ってくれるじゃない? 竜なのか、犬なのか、どっちなのかしら?」

 余裕そうに振舞うが、僅かな力みを感じる。


「竜だと⁉ 精神の乗っ取りなど、人間技ではないとはいえ、竜だと⁉⁉ 本気で言っているのか⁉」

「取り乱すなよ自由騎士。竜の存在ぐらい、遠いもんじゃなかっただろ?」

「だからこそだ! 竜が人にかかわろうとしたことなど・・・」

「そうだな。冒険者の常識で考えればあり得ねぇ。竜なんては人が勝手に挑むだけの頂きだったからな。つい最近まではな」


「そういえば、サルベージを竜が襲ったんだったな。貴公はその場にも――しかし、竜の眼だけで証拠となるのか?」

「逆に、竜の眼なんてもんを人が作り出せると思うか?」

 俺でさえ、龍王の眼を見たのが初めてだった。1人じゃ復元なんざ不可能だっただろう。ただ見せかける事さえ。見本がなけりゃぁな。


「それだけじゃねぇ。他にも証拠はあるだろ?」

「他の証拠・・・? いや、どう見ても本人にしか見えんが・・・」

 どうした? と言わんばかりに小首をかしげる女。

 如何にもって態度だが、ローランをどうにかしない限り化けの皮を剝がすのは無理だ。そして、今はまだその時じゃない。


「そっちじゃねぇよ。殺された方だ」

「暗殺が証拠だと?」

「暗殺じゃねぇ。それが答えだ」

「暗殺じゃないだと? どういうことだ?」


「亡骸のあった状況とその状態の話を聞いたんだろ?」

「ああ、そうだ。それどころか、恩人の死を最初に確認したのは私自身だ」

「争った形跡はなく、正面からの一突き」

「間違いない。だから暗殺だと・・・」


「もう1つ。あるだろ? 可能性が!」

「・・・可能性?」

 一度。こうだと思ったら視野が狭くなる。どんな人間にでも怒り得ること。

 だがそれが嫌になる瞬間だってある。


 今この時、こんな話の時にイラつかせるんじゃねぇよ・・・ッ‼‼ そう思いながら、奥歯で感情を噛み殺し、冷静に。俺は真実を告げる。


「コイツはな。精神を乗っ取れるんだ・・・いいか? 身体を自由に動かせるんだよ。だったら、外から人を呼んできて胸を貫かせるなんて、面倒なことをする必要があるか? 王族だの。教皇だの。少なからず、警備が厳重なはずの相手を消すのにだ」

「・・・・・・・・・いいや、そんなはずがなかろう? ――そんな最期が、あっていいはずが・・・ッ‼‼」

 ここまで言えば、将軍になった男も流石に気付く。


「言ったよな。どんな生物であっても、意識を2つに分けることはできない。だから乗っ取れる身体の数は1つだ。邪魔になった体は、どうすると思う? 放置したなら、どうなると思う?」

「そんなッ‼ そんな理由でッ‼‼ 殺したというのか⁉ 身体を乗っ取り、自死をさせたとッ⁉ 尊厳さえをも奪い去り‼ ゴミのように投げ捨てたと、そう言うのかッ‼」


「そうだ‼ だからッ‼‼ 俺はコイツを殺すより先に‼ 知らなきゃならねぇんだよ‼ そのためのくだらねぇ条件ってやつをなぁッ‼‼」

 言葉にしてしまえば、最早我慢などできなかった。

 この憤りを。この悲しみを。

 この怒りと殺意を。

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