side―――自由騎士・フリーダム1
この身は帝国にて生れ落ち、財持たず、恩を受けて育った。
親の顔など、ついぞ知ることもなく。
しかして、恵まれた人生であったと言える。
物心つくころには地下にいた。
皆が寄り添い、支え合って生きていた。
地上は今日も煌びやかに輝く帝都であるが、この地下はくすんで汚れたままだ。
この地下に生きる人々は、なぜ地下に生きるのか?
そして自分もなぜ、この地下に居るのか?
疑問を持つ頃になると教えられた。
この地下に済む人々は・・・元は南、現在はガルバリオ公国となっている土地に住んでいたのだと。我々は済む場所を奪われたのだと。
そう教えられた。
初めは憎んだ。
そのせいで自分は親の顔も知らず、苦労をして生きているのだと。
なぜそのような悪辣な事ができるのだと。
ただ実際には違った。
侵略を繰り返していた国こそ、このゴウガ帝国であることを知った。
それを俺に教えたのは、いつも胡散臭いこと言っては煙たがられている変なおっさんであった。
だが、俺は後に知ることになる。
このおっさんこそが帝国の将軍であったことを。
俺は将軍に言われて国を出た。
『外の国を見てこい! それがお前をデカくする‼』
なんてことのない言葉だが、なぜだか自然と胸に収まった。
だから冒険者となるためにチャード集合国を目指した。それが十代半ばのことである。
それから10年もするころには、気付けばS級などと呼ばれ出し、それにふさわしいだけの財や権利を手に入れた。
半面、義務や規則にも縛られるようになった。
俺はこれが嫌だった。
自分の力でなにかを成すのは、自分の望みでしかなかったからだ。
力を貸してほしいと言われて協力するのは、その時。俺がそうしたいと、そうするべきだと思ったからだ。
誰かに命令されて使われるのは違うと、そう感じていた。
しかし、冒険者をやめることもできなかった。
生きるためだ。
力に頼らなければ俺は生きられなかった。けれど、力を使うには立場が必要だった。
このことが俺を悩ませた。
ついに俺はこの悩みを将軍へと打ち明けた。手紙という名の報告は絶やしたことが無かったから、そのついでだと。自分に言い聞かせて。
『それがどこかへ、なにかへ所属するということだ。冒険者でも、軍でも、変わりはしない。それが例え国であったとしても・・・だ』
返事は僅かにこれだけであったが、これは暗に自分もそうであるという、将軍からの告白でもあったのだと。その時の俺には知る由もなかった。
これを機に、手紙の数は少しずつ減っていった。
そういうものだと自分を飼いならし、生活を送っていく上で色んな人々に出会った。
縛られるのが嫌だと、なににも縛られない生き方をした犯罪者。
その末路は語るまでもない。
誰かに従属することこそが生きがいだと語る従者。
今でもそうしているのだろうか?
俺のようになりたいと言ってくれた後輩達。
その多くが志半ばで命を落としていくことに罪の意識が積み重なった。
そして、自分と同じような目をした子供。
少し違うか。
幼い頃の、まだ将軍と出会う前の俺と似たような目をした子供・・・だな。
なにかを憎み、誰かを呪い、世界を妬む目をした子供。
それはドブに映る小さな自分と重なって見えた。
将軍はこんな俺を見て、世話をしようと思ってくれたのだろうか?
そんなことを考えるうちに、俺はその子供を育てることを決めていた。
子供のために。誰かのために。
そうやって生きることは俺に欠けていた部分を埋めてくれていく気がした。
憧れを伝えてくれた後輩達が死んでいくことで、俺なんかが居るから――と増え続けた酒の量もめっきり少なくなり、いつからか滞っていた将軍への手紙も、また出すことにした。
心配をかけるな‼ と、将軍には怒られた。
申し訳ないことをした。
長らく忘れていた鍛錬も再開した。
育てることに決めた子供へ伝えるためだ。
酒浸りになり将軍から受け継いだ盾術も、すっかり疎かにしてしまっていた事を恥じた。
将軍から貰ったものを、この子供へ。
それが愛かはわからないが、俺に出来るのはそれぐらいだと思ったのだ。
子供が育ち、大きな盾を扱えるようになるころには、俺も随分と歳をとっていた。
それで困ったことがあった。
子供が女の子だった。
正直、全然気にしていなかったのだが、年頃ともなると扱いが難しく、俺は自分の在り方に悩んだ。
もちろん。子供の今後についてもだ。
この子供は1人でに冒険者になるだろうと、そのころには巣立ちとなるだろうと踏んでいたのだが、女の子だと色々と事情が変わる。
そもそも冒険者になりたがるだろうか?
そう思うと同時に、憧れを語ってくれた後輩達を思い出す。
霊峰へ挑み、泣いて帰って来た者達、屍となり運ばれて帰ってきた者達、誰1人として帰ってこれなかった者達、残骸だけが残っていた者達、それすらもなかった者達。
なにが正解かななど、酒に逃げてばかりだった俺にわかるはずがなかった。




