暗底に沈伝した疑枠
マルチナへ興奮するマーテルの処置を任せ、俺は残りの部屋を見て回った。
その状態はどこも似たり寄ったりで、倒れている兵士と拘束された部族の仲間らしい人物が居た。
違いがあるとすれば、目隠しや猿ぐつわまでされていたのはマーテルのみ。且つ、部屋に1人で拘束されていたのもマーテルのみで、他の部屋では少なくとも2人以上が拘束されているようだった。
それはサン達の方も同じだったようで、合計にして十数部屋で状況が酷似していた。
っつーことは、マーテルだけが特別だと言う証拠でもあり、そうなりゃぁこれで全員にはなり得ねぇってことでもある。
ヤーレンには悪いが1人1人との会話は後回しにしてもらい、一度全員を廊下へ出した。もちろん安全は確保の上でな。
そうして人数を確かめるついでに、誰が居ないかの精査も行った。
「1人姿が見えませんネ。他の皆にも聞いてみましたがやはり、ローラン・C・トー。彼女だけがこの場に居ませんヨ」
マーテルがおねえちゃんと呼んだ人物こそが、このローラン・C・トーだ。
「彼女の魔法は我らが部族の中でも、飛び抜けて優秀でしたカラ・・・それを目的として連れさられた可能性が高いですネ」
宮仕えになれるだけの実力者ではあるはずだからな。
「なにより、彼女はマーテルを大切にしていましたカラ。それで断れなかったのかト・・・」
皇国での件に協力したのも、それが理由か。
当時からマーテルは行方不明だった。それがここに居る以上、間違いねぇ。
ただ・・・―――。
「ゼネスさん?」
「・・・どうした?」
「イエ、何も言ってくださらないので、どうしたものかト」
「正直、決めかねてる。ローランの捜索もだが、お前らをどうするかもな」
「どうする・・・といいますト?」
「このままここに置いていくか、先に避難させるかだ。置いていった場合は危険がある。奴らが諦めたかどうかが判断できねぇからな。この件を解決するまで気は抜けねぇ。先に避難させる場合は――」
「解決までに時間が掛かてしまうため、ローランの身の安全がより難しくなるのですネ?」
「そういうことだ。望福教の教祖は一度、負けて逃げやがったわけだからな。今回もそうなる可能性がある」
「連れ去り・・・優秀な魔法使いとして重用していたなら、あり得ますネ」
そう、教祖だ。
竜の眼をした人物こそが教祖であるのは恐らく間違いねぇ。
だが、ここに来るまでそんな人物は見てねぇし、誰からの証言も得られなかった。しかも、皇国での旗揚げ。北からの脱出も確認されてねぇ以上は、あの教祖とやらは今も皇国にいるはず・・・。
だったら帝国へ来る理由となった竜の眼の持ち主は誰で、どこにいる?
居るとすればこの城だ。担ぎ上げた姫様の隣にいると考えるのが普通。
なんだが・・・・・・、違和感がある。
そんな側近が居れば、もっと噂になってるはずじゃねぇか?
姫様の情報はあった。フリードリヒ達からの情報でも、十分なぐらいには。
なのに、教祖の情報は欠片もなく。それこそ、出国の前に聞いた分で最後。
ローランが連れ去られる場面に立ち会ったマーテルでさえ、目隠しをされたせいで教祖は見てねぇっつー話だ。
じゃぁどうやって連れ去りに気付いた? ローランがそう叫んだから。
それは本当か? その時に聞いたのはローランの声だけだったらしい。
なら連れ去ったのは誰だ? 自我のない兵士か? 目隠しをしたのはそうだったようだが、目隠しされてんだから誰が・・・なんざ見てねぇのは当然。とはいえ、そんな複雑な作業をあの指揮官が遠隔から出せるもんなのか?
指示がなかったのは声が聞こえなかったことで証明されてる。
それから、マーテルとローランを同じ部屋に押し込んだのはなぜだ?
より明確に意識させるためか? だとしても、ローランは優秀な魔法使いのはず。なにかしらの対策を打たれるとは考えねぇのか?
なにより、ローランは精神魔法を使えるんだろう? なら自我のない兵士なんかで、どうにかできるわけがねぇんだよ。
だとしたら――・・・なんでローランはここに居ねぇ?




