side―――ヤーレン
後悔をしたくないト・・・そう考えて行動するのは誰しものコト。
ですガ、部族の仲間のためとは言え、これが正しい選択だったのでしょうカ?
ただの1人すら立って居ナイ、すべからく倒れ伏した兵士達の姿を見て、ミーは自身のわがままが生んだ光景だト・・・恐ろしくなりました。
その光景を作り上げたのは他でもナイ、ゼネスさん。
立ち上がるものが居ないことを確認してカラ、
「行くぞ」
吐き捨てるように言って、阻まれていた階段を上ってイク。
この先には、いよいよ部族の仲間が居るかもしれナイ。ですガもし、部族の仲間が望福教に加担していたとしたら―――先程の光景が繰り返されるのデハ・・・・・・そんな不安ガ。
ここまでのゼネスさんの言動を信じれば、そんなことはあり得ナイ。
しかし。
つい今し方のあの怒りようを思えば―――・・・・・・。
囲まれましたネ。
分かってはいたことですガ、この3階部分には兵も多く配置されており、廊下という通路を使う以外の方法がありませんので、どうしても発見・迎撃されてしまいマス。
ざっと見ても50人は居そうですネ。
あらかじめ聞いていた兵力から考えれば、破格と言える数でしょう。
指示を出している存在も確認できました。それも5人も。10人1部隊なのかも知れませんネ。
その代わり、でしょうカ? 他の兵は静かというカ・・・無反応に近いような?
イエ、無反応というのは違いますネ。キチンと指示通りの行動はしているのですカラ。
しかし、ハイともオウとも言わないといいますカ、ただ動いているだけ。まるで人形ですヨ。とにかく不気味と言って差し支えありません。
こんな場合どうするのカ? 既に決まっていましたネ。
押し通る。
そうおっしゃっていました。
ミーは邪魔にならないよう程度に縮こまっているのが正解でしょうカ?
ミーの護衛は蒸気の騎乗者の皆様。
ですので、ゼネスさんに下手についていくわけにはいきません。そう思い、皆様へ視線を動かした瞬間・・・その表情に戸惑いましたネ。
丸く剥かれた目と中途半端に開いた口。それは紛れもない驚愕の表情。
なにガ? と思うのも束の間、弾けるような音が聞こえ、振り返れば――一番奥、階段に飛び散る何かが見えましたヨ。
それが何か、確認するより早く。
『何をしている‼ かかれぇぇぇええ‼‼』
敵の誰かが叫んでしました。
なのに、人形のような兵士達は動きません。というより、動けなかったというべきでしょうネ。
脚は動いているのに、顔や体、腕や手に持った武器が見えない壁に圧されるが如く微動だに出来ず、兵士達は足踏みをさせられていたのですヨ。
そのことに気付いた時、もう1つの事にも気付いてしまうでしょう。
さっきまで、あれほどに叫んでいた声はどこへ行ってしまったのカト。
声が聞こえないのはなぜカ、視線を巡らせてはいけなかった。
指示が聞こえなかったのはそれどころではなかったカラ。叫び声が届かなかったのは壁があったカラ。見てはいけなかったのは、その光景があまりにも惨かったカラ。
目に映らない壁に、絶対に壊れない壁に、挟まれてしまったら人はどうなるでしょうカ?
何かが弾ける音がした。
それは鎧が壊れる音か、あるいは人の頭が―――。
唯一の救いは指揮官と思しき人物が最奥にいたことだと言えますネ。
直視したわけではなく、あくまでもその過程を見ただけに済みました。
指示を出す人間が居なくなって、残りの兵士達は糸の切れた操り人形のように一斉に倒れ伏す。
あたかも神の生誕のようニ。
ミーは部族の仲間を信じてます。望福教になどかぶれているはずがないト。
そうでなければいっそ―――・・・誰もいないでくれト、そう思いなガラ。階段を上っていく背中を追いかけましたヨ。




