その先にあるもの
ゆっくりとした時間が流れる。
破裂したように広がった静けさが、我に返るような時間が。
俺を睨んでいた女王の瞳が地面に触れる。
ズシン・・・と頭が落ちる音で現実が戻ってくる。
周りの蟻は慌てふためき、気を引くための十字砲火は止んでいた。
女王の死を目の当たりにし、逃げる蟻を見送る。
どうせC級で包囲してるに決まってるんだ。これぐらいのサボりなら許されるだろう。
しかし、意外にもそれを許さなかったのはヨハンだった。
「今の‼ 先生がやったんですか⁉ すごいですね‼」
駆け寄りながら、逃げようとする蟻を倒していた。
「そっちも大丈夫そうだな」
「はい‼ 先生のおかげです! 正面から攻撃してたのに、見つかりもしませんでしたよ!」
いや、それは流石におかしい。いくら闇強化を使おうが真正面から仕掛ければバレて当然だ。それがバレなかったってんなら・・・、
「だとしたら、お前のギフトのせいだろうな。いくらなんでも正面からいってバレねぇわけねぇだろ?」
言われたヨハンはそうなんですかね? と首を傾げるが、才能なんてのは実際そういうもんなのかもしれねぇな。
誰かに言われなきゃ気付かないほどの、ちょっとした違いなんだろう。
「まぁいい。目標は撃破したんだ。報告しに行くぞ」
首に穴が開き、頭の重さに耐えれず千切れ、倒れ伏した女王を置いて教官のもとへ向かう。
必然的にサンとリミアと合流する。
「あの青白い光はアンタが・・・?」
「そりゃぁな。それがどうした?」
「いや・・・・・・」
サンはそれだけ聞いたら後はだんまりだった。
「あの強化魔法は私にも出来るでしょうか⁉ まさかあれほどの威力を出せるなんて・・・もちろん、教えていただけるのでしょう⁉」
「・・・そのうちな」
逆にリミアはあーでもないこーでもないと楽しそうだった。
出来ることが増えた時、嬉しくなるのはよくわかる。テンションの高いその姿は見ていて少し面白かった。
報告に戻ってみると教官は誰かと話していた。
B級かC級か。まぁ女王討伐の連絡だろう。
声をかけようかというタイミングで、その輪から教官が離れる。
「おぅ。よくやったじゃぁねぇか!」
振り向き様にこちらに気付いて教官から声を上げた。
「一応、やれるだけはやらせてもらいましたよ」
「十分すぎる結果だろぉよ。超弩級相手に死者どころか怪我人もほとんど出ちゃぁねぇ」
「そいつはなにより・・・外の被害は?」
「そっちも問題ねぇよ。今んところは、な。女王が死んで逃げる連中を残らず始末できるかは分からんがなぁ・・・」
皇都や南の町に蟻の被害が出るのが一番厄介なんだが・・・。
「そんな顔ぉするな! 南の町の連中にも手伝ってもらってる。大丈夫だ・・・たぶんな?」
「たぶんじゃ困るんですがね・・・」
ギルドの信用のためにも、な。
「あんまり気にすんな。それより、そっちはどぉだったんだ? 駆け出し連れて、臨時メンバーだった割にゃぁえらく簡単に倒しちまったみてぇだが・・・?」
「ま、生後3か月の個体って感じでしたよ。若い分、生産力はあったが戦術や戦略・・・どころか、自分で戦おうともしなかったんで、そのおかげですかね?」
「ハッハッハ! なるほどなぁ。そりゃぁ超弩級でも関係ねぇわけだ‼ 俺たちゃぁ運がよかったってことだなぁ」
そういうことだ。
皇都やその周辺の冒険者じゃ超弩級の相手なんざ碌に出来ねぇ。にもかかわらず、死傷者無しは奇跡といっていい。
「ですね・・・。そういう意味じゃジェイド達のお手柄になるのかもしれませんが」
「そぉだなぁ・・・。それで? その功労者たちはいつ来るんだ?」
サンに視線を送るが首を振る。
こいつにわからねぇんなら俺にわかるわけもねぇ。
「連絡だけ送っときゃいいんじゃないですか?」
「そぉするか」
ギルドカードを取り出していじる教官。
それを見て、俺も一息つこうと水筒を取り出し、中に魔力丸薬を突っ込んで煽る。
「まぁだそんな飲み方やってんのか?」
「アンタが教えたんでしょうよ・・・」
そう言って笑う教官に呆れていると、
「それって何か意味があるんですか?」
水筒を覗きながらヨハンが興味を抱いた。
「水に溶かせば液薬に近い効果になるんだよ」
「最初から液薬を使えばよいのでは?」
「液薬は持ち運びしにくいし、容器が使い捨て前提で土に還るように魔法処理されてて高いんだ。だから、冒険者はこういう方法を使ったりするんだよ」
「なるほど・・・」
リミアの疑問には黙っていたサンが答えていた。
丸薬は値段が安い、吸収が早い、数が持てる。で冒険者に人気だが・・・反面、魔力中毒などを引き起こしやすい。
液薬はよほどの量を一気飲みでもしなければその心配がない。
「今さら金の心配もねぇだろぉに、そこまでやるかぁ?」
「癖みたいなもんですよ。つーか、金には困ってんでしょ?」
「ハッハッハ・・・はぁ。そぉだった。しっかしどぉしたもんか・・・」
女王を倒しても問題はまだある。
金もそうだが、裏にいる奴。
それに・・・、
「よぉ、リーダー。全員無事に到着だ・・・。そっちはどうだったんで?」
こいつらのことも、な。




