帝国へ。五能
「兵隊が事前に用意されてた? いやまぁ、準備ぐらいはするんでしょうが、それにしたって穿ち過ぎじゃねぇですか? ここに来るまで結構な部屋の前を通ってきたわけで・・・もしかしたら、その中にも予備戦力が残ってるってぇ可能性も――」
「それはどうかな? だったらさっきの招集でもっと集まってるはずだよ。あそこで手を抜く必要がない。なにより、どうせ姿を消すんなら集める数は多い方がいい。20人が少ないとは言わないけどね。もっと集められるなら、それに越したことはないんじゃないかな?」
「ここまでの全部が演出じゃねぇなら、その通りだな。アイツらの言っていた休憩室が本当に休憩室だったかは謎だが、待機させられる部屋が多くあるなら、人数だって用意できてもおかしくはねぇ」
ホウとフッチ。それぞれが疑問を挙げながら状況を整理する。
「全部が演出ってのはつまり、あの将軍達が書いた絵図だって可能性が?」
「否定はできねぇな。あまりにも情報が少なすぎる。俺達はこの国のことを知らな過ぎだ。ただそれでも、そこまでは考慮してねぇけどな」
「一応ですが、理由を聞いといても?」
「手が込み過ぎてるだろ? なにより不確定要素が多すぎる。やるにしても、俺達みたいな不穏分子まで招き入れるか・・・? って話だ」
「一理どころか道理だね。全く。反論は思い浮かばねぇんで、その線は無しでいきましょう」
面倒過ぎて考えるだけ無駄になりそうな可能性がホウとの確認で消える。
「じゃあ本当の休憩室じゃないって話はどういうこと?」
「一時的な記憶の混濁は精神操作の魔法を受けた後にも起こり得る現象だ。あの場では寝起きって言葉を鵜呑みにしたが、精神操作を受けていた可能性はある。強力な操作じゃなく、別の部屋を休憩室だと思うような軽い奴を」
今度はフッチと別の可能性の話を進めていく。
「そっか。それなら騒ぎが起きてなかった理由にはなるね。事前に兵を用意していたっていう話にも繋がる。そうなると―――」
「数が少ないのが気になるよな?」
「そうだね。でも本当に予備の戦力だった可能性もあるにはあるんだよね? 彼らだけに割り振られた休憩室だった可能性も」
「ああ。つっても、指示飛ばしてた奴が消えた事への説明はつかねぇがな」
「それは――う~ん・・・一度、操作されてたって線で考えてみると・・・この城にいる方のお姫様は僕達が来ることを知ってた? ような気がする。20人を出すことで殿を出させたかった。さらに言えば、それを分断してこっちの数を減らしたかったんじゃない? それを何度も繰り返せば、数の有利を一遍に押し付けられるより苦しくなるし」
「心理戦としても強いな。離脱した奴が返ってこなきゃ、後ろからの追撃を気にし続けなきゃならねぇ上、実際に同じような追手が何度も現れるんだ。残った連中がどうなったのか、追ってきた奴らが同一人物なのか、後何度同じことが起きるのか、この調子で自分達の数は足りるのか、辺りの余計な事が脳裏を過れば、その分無駄に消耗させられる」
「確かにそういう不安は心に来るね。特に、時間との勝負みたいになってる現状ならなおさら。けど、それって普通に作戦として伝えても一緒だよね? 精神操作の魔法を使う意味ってある?」
「表の騒ぎが陽動だと知ってる状態で、尚且つ敵が少数で城内に乗り込んで来ると知ってて、そんな手間暇をかけて制圧しようと思うか? それだけの情報を持ってりゃ、侵入経路を探り当てて、ドヤ顔で待ち構えてりゃいいじゃねぇかと思うだろ?」
「・・・そうしない理由がないね。でもそうなってないってことは、そうしない理由があったってこと。なら、その理由に心当たりは?」
「精神面での勝利・・・要は見下したいのさ。武器を落とし、盾を剥がし、鎧を剥いてから負けを認めさせる瞬間を想像してみろ。気持ちいいだろ? そういう絶対的な勝利を敵は望んでるんだ。宗教らしいと言えばらしいな」
「排他的だからってことだね。僕としても、理解はできるよ。差別なんかと下地が同じだからね」
ホウとフッチは亜人だ。この南東大陸は亜人に侵攻を許した過去があり、その過去を原因として亜人差別が残る地方がある。
蒸気の騎乗者と共に赴いたガルドナットなんかがそうだな。
それと似たように、宗教は他の宗教を容認しない場合がほとんどだ。
だから、絶対的な存在になろうとする。
そう考えりゃぁ色々と辻褄は合う。
「まさか、そこまで見抜いて敵の作戦に付き合わないため、瞬時に隊列から離脱したこと? だとしたら、それって凄すぎるけど・・・」
「それこそまさかだろ。消えた奴がどこに行ったのかもわからねぇんだぞ? 全部都合のいい解釈に過ぎねぇよ。アイツらから離れたのだって偶々で―」
と、ここまではあくまでも可能性、こじつけの域を出ないと釘を刺そうとしたところで、
「それは嘘でしょう? ゼネス様は最初からあの方々と別に行動するつもりでしたよね?」
思いも寄らないマルチナから指摘される。




