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帝国へ。四転

 長い螺旋状の階段に待機するのは30と9人。

 9人はもちろん俺達だ。

 ライザード、マルチナ、ヤーレン、蒸気の騎乗者5人に俺を足して9人。

 30人の方は帝国軍の内から、フリードリヒ将軍へ従った者達28人と姫、将軍で30人。


 狭く薄暗い通路に長蛇の列を築いていた。

 元は王族のために作られた緊急脱出用の隠し通路。俺達はそれを逆に利用して強襲を仕掛けようとしている。それを思えば、通路が狭いのも仕方はないし、そこを約40人で使おうと思えば隊列が伸びるのも道理だ。


 時間としては夜明けまであと2時間弱といったところか。

 外や城内は騒がしくしている頃だろう。


 だが、地下からそのまま。この隠し通路を進行する俺達には、その様子はわからねぇ。ただ、作戦がうまく行ってるのなら、まず間違いねぇはずだ。

 あるいはこの長い隊列の先頭に居れば、俺達にも城内の様子が分かったかもな。つっても、外野の俺達が先頭になんざにいるわけねぇんだが・・・。


 俺は前から30人目の背中を眺めつつ、階段を一段、また一段と登る。

 階段が螺旋を描く都合上、目に映るのは精々前方の2~3人程度。


 その一歩一歩の度に少しだけ。

 前方との間隔が開く。


 理由は明白だ。

 俺の目の前にいる30人目が着飾った姫様だからだ。


 他が鎧だなんだをガシャガシャ言わせてる中で、1人コツコツという鋭い足音を立てる。その原因は当然ながら靴だ。踵が伸びた特徴的な靴を履くがためにこの高い足音を出し、その不安定極まりない靴を履くがために確かめるような一歩を必要としている。

 さらにそれを後押ししてるのが服だな。


 高貴さを感じさせる純白のドレス。長い裾は擦らないように持ち上げなければならず、白い手袋は汚さないために壁を触れることさえできない。

 格好が大事だというのはわかる――・・・・・わかるが、この体たらく。これで王族用の脱出路だってんだから本来の用途で使用してたらどうなっていたことか。


 もたもたしてる間に追手に捕まるんじゃねぇのか? いや、流石にいざとなれば王族も裸足で逃げ出すのかもな。

 なんて、冗談めかして言ってる場合じゃねぇな。


「はぁっ⁉ えっ⁉ なにッ⁉ なにしてるのよッ‼」

 物々しい雑音だけが占めていた空間に、高貴な姫様の声が響く。

「騒ぐな。支えてやるから遅れず進め」

 文字通り、後押しをするように背中に手を添える。


 カーナが驚いたのは急に触られたから――・・・だけじゃねぇんだろうな。触れた背中は籠手越しでもわかるほどに震えていた。

 自分が帝王となることに申し訳なく思うほどの葛藤を抱えているんだろう。


 それがなにかは知らないが、ここで折れてもらっても困る。

 しかしながら、俺がカーナの背に添えた手は、ある意味それを本人に自覚させたのかもしれねぇ。震えは治まるどころか、強くさえなった気がした。


「我らが姫様を脅かされても困るのだがな」

「そういうならお前が引っ張ってやったどうだ?」

「後ろを向いて階段を登れというのか? 大道芸人ではないのだ。そのようなことはできんな。しかし、姫様を支えるのは我らが使命・・・であれば、赤子の時のように背負う形になってしまうのですが、いかがしましょう?」


「・・・却下よ。っていうか、そんなことされた記憶もないわ! 今の私を軽々しく背負えると思わないで!」

「重々承知しておりますとも」

 一度たりとも振り向くことなく、悪びれることもなく、淡々と返す将軍の背中に、棘の刺さるような冷たさを覚えた。


 そこになにがあったのか、それとも戦場を前にした緊張感か。

 どっちでもなく。ただの勘違いだったなら、それが一番楽なんだがな。

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