狙いは違わず
作戦はこうだ。
サンとリミアが囮として気を引き、その隙にヨハンのギフト”影なるもの”で一気に近づいて、女王に警戒されるより早く一撃で仕留める。
そのためには、4人に融合強化を施す必要がある。
サンには火。リミアには水。ヨハンと俺には闇の強化だ。
囮といっても二人には無理をさせるわけじゃない。この強化と合わせてデカいのを1発ぶちかましてもらうだけだ。
まずはサンが敵正面で、その後に集まってきた蟻をリミアが片付ける。その間に俺とヨハンは脇を抜け、女王の背後を取る。
だから、それぞれに合わせて強化内容を変えなきゃならない。
攻撃組には火力上昇の為、隠密の俺達はヨハンのギフトと合わせて発見率を限界まで下げるためだ。
ありきたりな作戦だが、巣を潰されて・・・さらにはおちょくるようなヘイト管理を受けて、さぞイラついてるであろう今の女王になら通用するだろう。
つっても、時間の問題だ。
この状況が長引けば、敵も慣れる。そうなれば気付く。
こっちのヘイト管理っつー思惑が知れたら、各個撃破されて終わりだ。
作戦会議はわずか数分。
大まかな動きだけを決めて配置につく。
サンの攻撃が作戦開始の合図だ。
軽く体をひねってから槍を構えて前に出るサン。
女王はまだ、はるか遠くにいる誰かに気を取られていたが、サンの魔力が練られ始めると弾かれたように視線を向ける。
そのタイミングで全員に融合強化しかける。
モンスターは人間なんかより己の危機に敏感だ。気配や魔力には特に。
急激に膨れ上がった脅威に女王が周りの蟻に突撃命令を下す。
すると、黒潮とでもいうべき津波がサンに襲い掛かる。
辺り一面を黒一色に染め上げるうねりが飲み込む。
まさか? なんてことはなかった。
埋もれたのは一瞬。
すぐに灼熱の光が食い破る。
赤をその身に煙を巻いて、そこらの木ごと焼き尽くすかのような熱さで薙ぎ払う。見る見るうちに黒の面積が減り、浄化でもされたが如く大地が広がる。
が、あれじゃ素材回収は諦めた方がいいな。塵も残したくないのか? っていいたくなるようなの光景だ。道具類の支払いがあるってのに、教官が泣きそうだな。
吹き飛ぶ黒が消えるより先に、第2波が来る。
さっきより量も多く、狙いも一点だから結構な攻撃ではある。
だがしかし、そいつはあまりに無鉄砲だろう? なぁ?
サンを目掛けた黒の鉄砲水を今度は滝が撃ち落とす。
女王の命とあらば恐れも怯えも捨て去って、機械のように遂行する。それがどんなことであっても。たとえ、遥か高みから降り注ぐ水にただ突っ込むことになってもだ。良くも悪くも、命令には忠実なんだ。
それを見た女王は待ったをかけるが、どちらにしたって止まらない。
滝は圧倒的水量を誇り、蟻を叩き潰したところで止まるところを知らず、そのまま足が止まった蟻もまとめて押し流してしまう。流された蟻共は押し合いへし合い折り重なって潰れていく。
溢れて内側に流れた水はサンが蒸発させているんだろう、大量の蒸気が狼煙でも上げてるかのようだ。
ここからでは確認できないが予定通りならばサンがリミアを守っているはずで、それであれなら心配はしなくていいんだろう。
「先生!」
ヨハンの声に視線を戻す。
全員分の融合強化で魔力を使い切り、闇強化やヨハンのギフトと合わせて見つかる可能性は限りなく低いと思っていたが、前には蟻が。ただ、待ち構えていたっつーよりは取り残されたって感じだが・・・。
とはいえ、無視はできない。
もうすぐ林を抜ける。そうすりゃ女王の足元だ。木々が倒され開けた空間。俺の融合強化はそこで切れる。ヨハンの安全の為にそっちに魔力を多くつぎ込んだからだ。
かといって、魔力はない。回復も出来ない。超弩級相手に全力が出せなきゃ最悪があるからな。
石弾も弾切れ。無手でも十分どうにかなるが・・・時間がない。
っつーことは、だ。
「ヨハン‼ 雑魚は任せるぞ‼」
潜伏のための闇強化だが、ヨハンにとっては適性だ。火力の底上げにもなってるはずだし、ここに来るまでにも蟻相手に戦えてたんだ。問題ないだろう。
「ッ‼ わかりました‼ 任せてください‼」
面を喰らったように、けれど声を張り上げるヨハンを残して駆け抜ける。
置き去りにされた蟻共を。踏み抜き、蹴り上げ、首をもぎ、投げつけ、飛び込む。
岩と土の混じる地面に転がり滑りながら飛び出す。同時にそこで強化が切れ、女王が振り向く。
魔力切れの人間でも、背後をとられりゃ脅威になるか。
立ち上がる間もなく、すぐさまポケットに用意して置いた丸薬を口に放り込み噛み砕く。
バキリ! と音を立て流れ込む魔力をそのまま弾切れの右籠手に集約する。
女王の指示か? 近くの蟻が慌てて突っ込んでくるが、もう遅い。
お前の死因は折角のその体躯を飾りにしたことだ。最後まで傲慢に、己で戦わなかったことだ。
なにより、
「舐めすぎだ」
世界を知らないにも程がある。
閃光が飛ぶ。
純粋な魔力の一条。
空を割り、太陽を砕く熱線が、敵を貫き迸った。




