帝国へ。四球
「部族の仲間が?」
「ハイ。城の中に集まっている可能性があると思うんですヨ」
「根拠はあるのだろうな?」
将軍と城への攻勢について意見を出し合う中で、ヤーレンがもしかしたらと割り込みをかける。
「情報の少なさト、それでも手に入った情報カラ。可能性はあるカト」
「少なさってのは、ここへ来るまでに目撃情報さえなかったことが――ってことでいいとして、羽飾りの件は? わからなかったんじゃねぇのか?」
「そうですネ。今もあくまで予想の範疇として。羽根の色を灰、そして飾りの形を四角と球だったト、仮定した場合ですガ・・・」
そう言ってヤーレンがつらつらと話す。
灰の意味を埋伏っつー隠れているだけのそれじゃなく、再燃や逆襲といった反攻の意志であるという可能性。
さらには留め飾りの数字的表現。
説明されてみれば確かに、部族の人間が40程度の紛れていてもおかしくはねぇと思える。
ただ、
「的外れの可能性もあるよな?」
あまりにも希望的観測に過ぎる気もする。
「どういうことでしょうカ?」
「見間違いではない可能性・・・であろうよ。灰ではなく、死を意味する黒であったなら、単純に40人の命が失われたというだけの符丁になるのではないか?」
「それハ―――ッ‼‼」
ヤーレン本人からすりゃぁ考えたくもねぇ事だろう。
あくまでも可能性、そういうのであれば。これも同じく可能性だ。
留め飾りの方も四角が2つなら44になるはずだが、まぁそっちはいい。
「40人。引き込めれば随分と楽になる。城に潜んでたんなら、中の構造や、敵の配置も多少は覚えてるだろうし、直接的にじゃなくても十分な戦力だ」
「であればこそ、あてにはできんな。より強力な精神操作を受けているやもしれぬ。そうであった場合、解放が可能なのか? そのための条件や時間、労力に見合う成果が約束できるのか? といったことが問題になるであろう。しかし、貴殿は商人。1人でなにができようか?」
キチンと戦況を考えての言葉。
ヤーレンの帯同を認めたとして、部族の解放に必要な説得だとかに人手を割けるかといわれたら・・・難しいとしか言えねぇ。
こっちの手勢はただでさえ少ないんだ。
ヤーレン曰く、部族の人間は利用されているだけらしいが。その原因が何かはいまだに不明。金や人質、立場や栄華の可能性もあるが、精神操作だと考える方が自然だ。
例え、皇王陛下のいらっしゃる宮廷へ使えていた魔法使いであっても。
その魔法使いこそが精神操作の魔法を使う側だとしても、原因を取り除けないんじゃ結果は同じだ。
説得できなきゃ時間の浪費。
そして、こっちには無駄にできるほどの時間がない。
力なく俯くヤーレンへ声を掛ける。
「そう落ち込むなよ。ついてくるなとは言わねぇ。城の中に部族の仲間が居たら、それはそれでいいことだろ? 直ぐには無理でも、決着がついてからなら保護できる。全部で何人ぐらい居るんだったか?」
「・・・・・・50人前後ではないかト」
「だったら、数字を信じれば8割前後の仲間が居ることになるし、それを外へ知らせてるってことは、今はそれ以上の仲間が集まってるかもしれねぇってことだ。戦力としては期待できなくとも、安否の確認ぐらいはできるかも知れねぇぞ」
「それハ――・・・ハイ、そうですネ。お役に立てるかト思ったのですガ」
「勘違いして貰いたくないから言っておくのだが、なにも貴殿の仲間を必要としていないわけでも無ければ、その能力を疑っているわけでもないのだ。ただ、時間や人手を用意できなかった私達の落ち度。本当に済まない」
気落ちするヤーレンへ将軍が深々と頭を下げる。
「イエ、そんな――っ‼‼」
一国の将に頭を下げられ戦々恐々といった商人だが、
「重ね重ね、このような事態になりながら、そちらの要望すら叶えられず。あまつさえその情報さえ持ち得なかった我らを、どうか―――許していただきたい」
将軍は構わず机に額を擦り続けた。
だが、ようやくだな。
ようやくヤーレンの仲間を見つけられそうだ。
この後がどうなろうとも、最低限の戦果は確保させてもらう。
こうやって頭を下げる将軍が望まぬ形になろうとも。そのせいでカーナと名乗った姫様が窮地に立たされようとも。
その結果、平和が幻の露と消えようともだ。




