間隙の追撃
「暗号の方はどうなんだ? 解けそうにはねぇのか?」
「様子がおかしくなってから書いてるらしいので、なんとも・・・・・・。おかしくなる以前に書いてあったなら軍の暗号では無いでしょうから、ベルと御父上の接点から自ずと鍵が見つかったかもしれませんがね。苦労して暗号を解いた結果が望福教への勧誘だったりしたら、俺は暴れまわりますよ」
「そりゃあ完全な徒労になっちまうわけだからなぁ・・・」
そんなくだらないことを言い合いながらも、手帳をめくる手は止めずにいた・・・が、
「ついに白紙のところまで来ちまったようだな」
「結局。暗号を解いた様子もなく、書き置きについてもわからず終いか」
取ってくるもん間違えたか?
「確か書き置きの内容は――『鍵は司令部の監視室』だったな? それで手紙の内容が、『仕事には馴れたか? 私の側近としての自覚を、持てているだろうか? これから貴君は躍進の旗となる。嫌うことなく、疑うことをせず、我が意図を測り、その上で自助努力を忘るることなく、邁進せよ――』と。もう一回、そいつの部屋へ忍び込んで、別のもんでも取って来た方がいいんじゃねぇか?」
「俺も取ってくるもんを間違えたかなと思ってたところですよ。それをするぐらいなら本人の方を探しますが・・・」
既に警戒されてるであろう宿舎にもう一回行くぐらいなら、鍵とやらの司令部の監視室へ潜り込んだ方が手っ取り早い。
なにが鍵なのかも知らねぇし、その方法を思いつきもしねぇが、労力は大して変わんねぇだろうからな。どっちもそれぐらい面倒だ。
「ってこたぁ方針もなにも決まらんかったってわけだ」
「そうですね。どうしたもんか・・・」
「なら、ついでだ。冒険者ギルドの問題についても聞いていけ」
「これ以上、俺になにを押し付けるつもりです?」
「なぁに。既に持ちきれんことになってるお前さんにゃぁ変わらん程度のもんだ。それに、一番最初にお前さんへ頼んだのはこのワシだからな! 順番は守ってもらわんとな」
「クソほど厄介な宗教革命が起きそうだってこんな時に。順番もなにもあったもんじゃないと思いますがね」
「そのクソほど厄介な宗教がらみだから言っとるに決まっとろうが!」
「そんなもん! わかり切ってるから聞きたくねぇつってんでしょうが‼」
あわや掴み合いになりつつも、俺は教官の話を聞いた。
「元々、ワシがお前さんをギルドへ誘った理由は覚えとるな?」
「新人がどんどん辞めていくから・・・でしたっけねぇ?」
「まぁそうだ。その原因が――」
「どこかからの圧力。辿っていたら政治屋に当たったんでしたか」
「うむ。その陰にチラついていたのが望福教で、今までは可能性に過ぎんかったわけだが・・・」
「証拠でも出ましたか?」
「決定的とは言えんがな。十分な証拠となるだろうものが出たわけだ」
「聞きたくねぇけど聞きますね。なにが、出たんですか?」
「失踪者だ」
「辞めていった連中が?」
「その通りだ」
「でも、それだけじゃねぇんですよね?」
「それも、お察しの通りだ」
「ミリー・・・じゃぁないですよね。流石に」
「そうだったなら、お前さんの話なんぞ悠長に聞いとらんし、なにより。今この場におらんだろうよ」
過保護が・・・と思わなくもねぇが、仕方ねぇな。
アイツの母親は肝煎りの肝っ玉母ちゃんだからな。
下町の頭領と呼ばれてるぐらいにはすんげぇ英傑だ。
その娘になにかあれば、下町の人間が総動員されることだろう。
それはこの冒険者ギルドだって例外じゃねぇ。
「誰が・・・って一応聞いといたほうがいいですかね? わかるかどうかもわかりませんが」
「受付の――ミリーにはマーちゃんと呼ばれとった娘だ。名前はマーテル。これといった特徴は小柄なことぐらいか。確か、泥棒騒ぎの時にお前さんも姿は見とったはずだが」
「そう言われりゃぁなんとなくですが、見覚えがある気がしますね。割と新人だったような・・・」
「ああ。お前さんの後に入れた唯一の新人だ」
「それは・・・厄介ですね」
「厄介だろう? だから、お前さんに話したんだ」




