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仲間は要るよ?

「なんだ? 今上がりか?」

「上官から特別訓練出されててさ~」

「明日の起床役って誰だ?」

「この間起床隊に入った新人じゃないか?」

「戦術的に見れば有効なんだろうが、戦略的とは言えないんじゃないか?」

「だが、局地的な戦いで戦略まで考慮するのは難しいだろう?」


 侵入した軍の宿舎はひしめくほどの人の波・・・ということもなく、まばらに話し込んでいる奴らが居るだけで、宿舎の許容量からすれば人数はかなり少なく感じられた。

 話し込んでいる内容、場所は様々。


 今日の訓練の話や、明日の話について話しているかと思えば、その隣で戦術論について話していたり。

 休憩所で座って話している者もいれば、窓辺や廊下で並んで話しているだけの者もいる。


 それらの密度は低く、すり抜けるのに苦労は要らない。

 唯一強いられているとすれば、軍服を着させられているという心労くらいだ。


 目的地は上層階に設けられた士官用の個人部屋。その中のベルが使用している部屋だ。

 上層階は士官以上しか立ち入りできないと宿舎の入り口に書かれていた。

 勝負はそこからになるだろう。


 一応、目深に帽子を被ることで顔を隠しちゃぁいるが、ベルを良く知る人物とばったり出会ったらそこで終了。

 潜入は一転して逃走劇へと変わる。


 だから、なるべく目立たないように動いていたはずだが・・・、

「おい。そこのお前・・・」

 なぁんで声を掛けられるかな。


 呼び止めてきたのは大柄な男のようだ。

 目深にかぶった帽子からでは顔が見えず、しかも狭い視線に収まるのがベルト辺りとは、かなり恵まれた体格をしているな。

 捕縛役にはもってこいじゃねぇかよ。


「・・・なんでしょうか?」

「いや、なんでこんな時間にもなって軍装なのかと思ってな」

「司令部に呼ばれていたもので」

「司令部に・・・・・・?」


 怪訝な声にしくじったか⁉ と一瞬肝を冷やしたが、

「その金線は――ッ⁉ じょ、上官殿でありましたか‼ 失礼いたしました‼ 今のはその! 知的好奇心からと言いますか・・・‼」

 肝の冷やし具合は向こうの方が高かったようだ。


「・・・そうか」

 そういえば、おもり隊の隊長なんざをやってた時から、急激に階級が上がってったんだったか。

 アイツの今の正式な階級は知らねぇが、こんな大男が震えあがるほどとは恐れ入る。

 この短期間に随分と出世したもんだ。


「その・・ですから何卒・・・」

「構わない。しかし以後は注意するように」

「はっ! 寛大なご判断、まことに感謝します‼」

 大男はバッ! と最大限に敬意を払った着帽式の敬礼をした後にそそくさと去っていったが、アイツは帽子を被っていたんだろうか?


 まぁいい。

 ここまで視線は感じつつも声を掛けられ無かった理由もわかったしな。

 俺は少しだけ歩く速度を速めながら階段へと向かった。

 階段自体は入り口のすぐ近くにもあったが、俺はあえて1階を突き進み、奥にある階段を登ることにした。

 そうした理由は、士官同士ならお互いに顔ぐらいは知ってるんじゃねぇかと思ったからだ。


 あえなくその意味を失うところだったが、大丈夫だったなら問題はねぇ。

 この後もなるべくそうならねぇよう、ベルの部屋から近い階段を使うために1階を突っ切る。


 宿舎の構造とベルの部屋の位置は執事から聞いてたからな。

 なんで一執事が、そんな軍施設の内部のことまで詳しく知ってるのかは甚だ疑問だが、ベルにでも聞かされてたとかだと思っておくことにする。


 3階まで階段を登ると、階級を確認するための扉が出てくる。

 この扉に備え付けられた魔法道具に階級章を当てると、施錠が開く仕組みになっているらしい。

 緊急時の避難とか大丈夫なのか心配になるな。


 そんなこんなで5階まで来ると2つ目の施錠扉だ。

 こっちも仕組みは同じ。

 軍服の階級章を魔法道具に確認させて鍵を開ける。

 さらにこの上へ続く階段もあるが、ベルの部屋はこの階だ。


 廊下へ出て部屋を目指す。

 突き当りを曲がり、扉を4つ数えればお目当ての部屋の前。

 預かっていた鍵を差し込んで開錠、そのまま中へ。


「ま、わかってたことだと言やぁそうなんだがな・・・」


 部屋の中には明かり1つ点いておらず、当然人の気配なんぞありはしなかった。

 いや、それどころか。


「この階に1人でも生活してる奴がいるのかねぇ・・・」


 階段から廊下へ出た瞬間に感じた、異様に冷たい空気が気になってはいた。

 人が生活していれば、多少なりとも空気は暖かくなる。

 だってのに。


 部屋へ至るまで、生温い風というか、そういうものが全くなかった。

 そしてそれは、この階だけで収まるのだろうか?

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