発端の腰間
『宮廷魔導士の1人がダンデに会いに行ったことがあった。時期は今からだと2か月ほど前になるか。その名鑑では真ん中の辺りに載っておったはずだ。名前は―――』
その話を聞いて、幾つか陛下と約束を交わさせていただいてから、俺は皇宮を後にした。
ローラン・C・トー
変わった名前だ。
トーってのは氏族名らしい。
しかし、そんな風習は皇国にはねぇ。
それがあるのは東の共和国。
つまり、そっちが出身ってことだろう。
名鑑によれば長身の女性で、数多くの魔法を習得しており、その仕事ぶりはまじめの一言。
寡黙故に人柄の項は埋まらず、かといって嫌われているわけでもないようだ。過ぎない態度が好評を得ていると書かれていた。
陛下の寝間を出た俺は来た道を戻り、奇妙な部屋へ。
そこから隠し扉を通って薄暗い通路へ。
通路へ出る時には、首にあった呪印が消えていた・・・と言っても、見えなくなっただけだろうが。
俺はそんなことを気にしながらも、さっさと通路を引き返し、教会の敷地の中へと戻る。
そこで待っていたグレアムの爺さん達にあらましを手短に語る。
「予想通りということか? まさか本当に宮廷魔導士が・・・・・・」
「まだ可能性の範囲内だ。陛下に嫌われたくなけりゃ確証を得るまで、軽々しく口にはしねぇことだ」
「それより! 皇王にならないかと言われたとはどういうことです⁉ なぜ貴方が⁉ もしや、この僕に取って代わろうとか⁉」
「んなつもりはねぇよ。断ったに決まってんだろ? それに元は勘違いから始まった話だ。陛下がその気だったとしても、そうはならねぇよ」
「陛下の勘違いってなんなの? 叔父様」
「俺がジーナと婚約したと思ったらしい」
「・・・・・・違いまして?」
「断じて! 違う‼‼」
「あんなに仲がよさそうなのにね? 私はお似合いだと思うよ!」
「まったくですわ!」
顔を見合わせるビューティーとエイラス。
「こらこら。大人には色々あるんだ。下手に詮索してはいけないと、いつも言っているだろう?」
「は~い」
「失礼いたしましたわ」
それをサンパダが諫めるが、焼け石に水か。
表面上では了承しているが、興味を失っているようには見えない。
女は幾つであっても色恋沙汰が好きだな。なんていうと、面倒な連中が騒ぎ出しそうだが・・・まぁ、間違ってもいねぇだろう。
「それで? どうするつもりだ?」
「ベル・・・軍に入った友人に連絡はしてみたんだが、返信がなくてな。なにかあったのかもしれねぇ」
「探りを入れてみるか?」
「いや、下手に子飼いを動かして存在が露見したら面倒だ。こっちで直接見に行ってみるさ」
「お主が寝返ることの方が面倒だと思うが、その心配はなかろうな?」
「先に精神魔法への耐性を上げて行くから心配ねぇよ。いざって時のために外部からの保険も用意しておく」
「保険だと?」
「あぁ、魔法道具に解呪や対抗の精神魔法をあらかじめ覚えさせておく。一定時間でそれが発動するように仕込んでおけば、最悪の展開は防げるだろ」
「そのような便利な道具を持ち合わせておるのか?」
「俺は持ってねぇよ。けど・・・―――」
「どうかなされましたか?」
「商人ならここにいる」




