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坊間の外にて

 入ってきたのは使用人の少女。

 歳のほどは若く10代かそこらだろう。

 深々と下げられた頭は頂点が見えるまでに至り、しかしてその姿勢には、僅かなブレさえも感じさせない。

 一級品の所作と言って差支えがねぇ出迎え。


「お荷物はできる限りこちらでお預けいただければと思ったのですが――」

 顔を上げると同時に俺を確認して、困ったような表情で少女は言葉を詰まらせる。


 予定ではここで武器になりそうなものを置いていかせる手はずになっているんだろう。

 保険かもしれねぇが無理もねぇ。

 皇王陛下に限らず、多くの皇族が暮らしている空間に足を踏み入れるわけだからな。


 だが、俺は何も持ってきてねぇ。

 正確に言やぁ”外して置いていけるようなもの”を何も持ってきてねぇ。

 ベルトの後ろには小さな魔法鞄が取り付けられているし、ベルトと鞄の間にはナイフも収納されている。

 両手を包む籠手だって、武器になることは一目見て明らかだ。


 ただ、それを指摘してもいいものか・・・迷っているんだろう。

 俺のような奴がここへ来るのは初めてだろうからな。


 グレアムの爺さんに限らず、ここへ来るような連中は小綺麗な貴族ばかりのはず。

 そこへ見るからに冒険者崩れの様相をした俺のようなのが来たんじゃ委縮だってするだろう。

 入り口の契約だって使用人にまでは対応してないだろうからな。

 仕方なく俺は自分から外套を脱ぎ、籠手を外し、鞄とナイフを預ける。


「・・・ご協力、ありがとうございます」

 そう言ってますます深く頭を下げた少女に引き連れられ、俺は長い廊下を突き進む。


 移動距離が長いのは、万が一の時に逃がさないためか。

 光を取り入れるための窓もあるが、見える景色はどう見ても中庭。

 しかも、いつの間に階段を上ったのか、そこから見える景色は2階のそれだ。

 徹底した危機管理には舌を巻く。


 窓から覗く空が、微かに燃え始めたのを見たあたりで、

「こちらでございます」

 扉を一歩分通り過ぎた少女が振り返って頭を下げる。


 両開きの大きな扉。

 金色の取っ手は赤茶の扉に高貴さと威厳を与え、中央に刻まれた王家の紋章は厳めしさを覚えさせる。


 簡素でありながら荘厳な扉、その取っ手の片方を掴んで押す。

 重く、固く見えた扉は、少しの力で簡単に開くほど軽く。

 中から溢れ出る風は、どこか肝を冷やすが如く。冷たく感じられた。


 一歩、踏み入れた部屋の先。

 直ぐ目についたのは部屋の中央に置かれた天蓋付きの大きなベッドだ。

 薄い幕が降ろされ、まるで結界に覆われるかのようなベッド。

 そこから声が響く。


「・・・・・・来たか」


 遥か昔、まだこの地より旅立つ前。

 何度か耳にした声。

 勿体なくも直接聞いたこともあるその声は、確かに”来たか”と言ったのだ。


 誰だ? でもなく。

 なんだ? でもなく。

 確かに。


「ダンデ・L・グラーニンが次男。ゼネス・C・グラーニン。失礼ながら、陛下の寝室にまで参上いたしましたこと。お許しください」

「良い。面を上げよ。私が呼んだのだ。そう畏まるものではない」

 のそりと、薄い天幕の向こうで人が動く気配がある。


 上半身だけを起こすようにして、陛下はそこに在られた。

 体調不良だと聞いていたが、それほど大事ではなさそうに見える。

 それはいい。

 だが、俺は跪きながらも疑問を隠せなかった。


「なぜ、そなたを呼んだのか? 気になっているようだな?」

「ッ⁉ いえっ、そのような・・・ところです。はい・・・」

 不意に言い当てられても、なんて言やぁいいのか―――。


「ふはは・・・素直なものだな。そのようなところも似ているのか」

 誰と、なんざ言えねぇわな。


「それが私を呼んだ理由でしょうか?」

「もちろんだ。しかし、それだけでもない。聞いてくれるか?」

「なんなりと」

 俺が矢継ぎ早にそう答えると、陛下は天幕を割って微笑んで見せた。

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