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間柄の確認

 今更だが俺達が今、話している場所はさっきまで乗っていた馬車の隣だ。

 となれば、

「お爺様・・・皇王陛下が倒れた・・・・・・ッ⁉⁉」


 必然的に子供達にもこの会話は聞かれるわけだ。

 そしてその中でも、皇族――しかも直系のライザードにとっては身内の話。なにより場合によっては生命の危機という繊細な話題。

 衝撃を受けた顔で息を呑むライザードのその様子に、一刻も早くという思いから、俺は先走ってしくじったかと思われた。


 だが、

「今退位されると、この僕が皇王になれないのではッ⁉ せめてあと数年は頑張ってもらわないと‼」

 続く反応に杞憂であったことが知らされる。


「殿下・・・・・・それでいいの? お爺様なんでしょ?」

「それは貴方にも言えることでしょう? バロン。貴方のお爺様もなにやら怪しいようですが・・・」

「それはそうなんだけど・・・でも殿下のお爺様は皇王陛下でしょ? 流石に重大さが違うと思うよ? それに―――」


 そこまで言ってバロンは俺の方を見た後、

「こっちには叔父様もいるから」

 自信あり気にライザードへ頷いて返す。


「まあ・・・そうですね。いざとなれば命を懸けてでもどうにかしてくれるでしょうし、この僕としても。今は静観というか・・・情報を集めるべきだと思います。特に、さっきの話は気になりますからね」

 と、返された方も肩をすくめながら俺を見る。


 この数か月。やったことは移動とゴブリンの討伐ぐらいだが、それにしては随分と信頼を得られたもんだ。

 今のところ命までかける予定はねぇが・・・子供達を守るためなら、そんな未来もあるのかもな。


「さっきの話ってのは―――」

「もちろん間者のことですよ」

「だろうな。つっても、調べる方法がねぇ。それとも、心当たりでもあるのか?」


「それは・・・ありませんね。この僕にはついてくる人間が居ない。貴方の言った言葉の意味を今、痛感してますよ。間者の心当たりはおろか、お爺様のところへ送り込めるような信頼できる人材も居ません。正確には、この僕の命令でも従ってくれそうな相手が居ない・・・ですけどね」


 話し口からして信頼している人物自体はいるんだろう。

 だが、その相手からの連絡がないか・・・誰かに従っているのを見たか。

 どちらにせよ、一番皇王陛下に近いはずのライザードが手詰まりなんだと擦れば、そっちの線から動くのは無理だ。


 そうなると残る手段は・・・・・・。

「確か、ゼネスさんは教皇様と仲がよろしいのでしたよね?」


 話を振ってくるのはサンパダだ。

 まぁ、教会は回復薬に限らず色んなものを売ってるからな。商人ともある程度顔が効く。

 というか、ガルドナットへ遠征するきっかけを作ったのがあの爺だったな。

 俺達の関係は知ってて当然か。


「教会の方はどうなってる?」

「正直、わからない・・・というのが本当のところですね。付き合いはなくなっていませんし、表向きに変わった様子もありません。対抗を主張する団体が出てきたというだけで、教会側からの目立った行動はありません」


「目立った行動は――っつーことはだ」

「ええ。教皇グレアム様は静観を決め込んでいるわけではなく、水面下で動き始めているようです。少しずつ囲いこんでいた子飼いの望福教の教徒を、そのまま望福教へ送り出しているそうです。恐らくですがこれは――」


「間者だろうな。以前ユノから聞いたアレだな。本人にこそ、その意思はねぇだろうが、なにかしら仕込んであるはずだ。本物の教徒のおまけとして、教会側の人間も付けてるか。あるいは、関係者を教会側で囲ってあるか」

「そんなところでしょうな。グレアム様からも歯切れこそ悪かったですが、対策はしてあるとの発言は頂いております。そのついで・・・というわけでもないのですが」


「俺が来たらよろしく伝えてくれって?」

「そのようなものです」


 俺がサンパダを頼ることに気付いてた?

 いや、学園からマンサ商会へ馬車を出してくれるように依頼した時点で、なにかを察していた可能性もあるか。

 普通なら貴族会か軍へ要請するはずのところを、わざわざ商会へ依頼してるわけだしな。

 そこを警戒していたところに反逆が起きて――って方がしっくりくるか。


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「どうした?」

「なぜ、教皇様は先生へよろしくお伝えするのです? 不可思議ですわ!」


 暇そうに話を聞いていたビューティーが普通過ぎる質問をする。

 たぶん、サンパダもこれが聞きたいんだろう。


 なぜ教皇と仲がいいのか。

 そしてなぜ、そんな教皇が俺を頼るのか。


 教皇と言えば教会の頂点。

 それがなぜ、加護を信仰する教会の教義にかすりもしねぇ外野の元冒険者なんぞに、なにかを頼ることがある?

 しかもそいつは貴族でありながら、貴族としても大した地位を持たず、家系に根ざした権力すら持ち合わせていない。


 にもかかわらず、なぜ?

 その理由を知るものは、現教皇の爺さん含め極少数だ。


「それは俺にちょっとした秘密があるからだ」

「秘密・・・ですの?」

「あぁ、秘密だ」

「その秘密‼ 是非とも知りたいですわ‼」


 興味本位だけで素直に正面から突っ込んでくるビューティーと、このやり取りを聞きつつそわそわする子供達。

 しかし、一番聞きたそうにしていたのは――年甲斐もなく目をキラキラと輝かせているおっさんだったりする。


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