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「で、お前らはどうする?」

 俺は問いかける。

 移動する馬車の中で、どうにかかき集めた5人の子供達に。


「そんな話をいきなりされましてもね・・・」

「私も困ってしまいますわ! 教会のことはラブリーお姉様の方が詳しいんですもの! 私の意見なんか通りませんわよ!」

「普通そうだよね~。ウチも商会頭たるお父さんが決めるんじゃないかな? ありていに言うなら、より儲かる方を選びそうな気がする」


「僕は・・・どうでしょうね。父は認めないと思います。軍にいた人達は神様の加護を信じてる気がするので・・・・・・でも、その軍が後押しするんですよね? だったら・・・でも、うーん」

「お爺様がそんなことを――? 僕はどうしたらいいんだろう?」


 領都から皇都へと移動する馬車へ乗り合わせられたのは、皇太子の嫡男ライザードを筆頭に、普通に貴族の娘であるビューティー、マンサ商会の商会頭の娘エイラス、騎士爵を父に持つジェーン、俺の甥であり反逆に肩入れする英雄を祖父に持つバロンの5人だ。


 この5人の内、ビューティーを除いて4人は簡単に手元に置けた。

 理由は単純に扱い辛いからだろう。


 望福教がやろうとしていることは扇動に他ならない。

 子供を使って皇都貴族を1人でも多く取り込み、国教の変更を皇王陛下へ直訴するための扇動。

 だったらライザードを使えば――と思うかもしれねぇが、それは悪手だ。


 ライザードは皇族だ。

 当然それなりの教育を受けてきている。

 その分、他の子供達より随分と賢い。

 下手に使おうとすれば目論見を看破された挙句、真実を盾に足元を掬われる危険性がある。

 なにより、上手くいかなかった時の反動が予想できない。最悪の場合、折角集めた民衆すら手のひらを反すことになりかねないと考えたはずだ


 そういった理屈で、ライザードは人質から外されたんだと予測できる。

 そしてそれらと同じように、商会という独自の勢力になり得るエイラス。

 発言権の弱い騎士爵は不要とされたジェーン。

 御父上がいる上、兄上は北の辺境と使い道のないバロン。


 この4人はあの男やマルチナからしても扱い辛かったのは明白。

 ならなぜ、普通に皇都貴族の娘であるビューティーはこの中に含まれているのか? 既に実家を取り込んだ後なのかとも思ったが、ビューティーの口ぶりから実家への影響力の低さに気付かれたのかもな。


 そんな5人に俺は皇都での反逆のことと、あの男とマルチナの関係、更には2人が望福教信者であることまで伝えた。その企みまでもを、だ


「まぁ、そんな反応になるよな。俺達は皇都へ戻っても蚊帳の外になる可能性が高い。だが、だからってなにもしないで見てるのか? って話だ。行動の指針は重要だろ? そういう意味で、どっちにつくのか・・・あるいは、関わらないようにするのか。決めておいた方がいい」


「反逆があったことは理解しました。ですが、だからと言って。この場で決めろというのは強引でしょう。皇都の現状も見ずに方針だけ決めたとしても、情勢によっては意味がないどころか、最悪は敵として排除されかねません。今は一刻も早く皇都へ戻り、情勢を見極めるべきでは?」


「ライザードはこういってるが、他はどうだ? なにか意見はあるか?」

「先程も言いましたが、私は実家にいるであろうラブリーお姉様の意見に従いますわ。キューティーお姉様は実家を離れていますし、父も母もラブリーお姉様を溺愛していますから、その言葉に従うでしょう。なので、私もそういたします」

「私も一緒かな」

 少し呆れたようにいうビューティーの言葉にエイラスが同意する。


 そうすると、

「貴方もラブリーお姉様の意見に従いますの⁉ もしや、私達は姉妹だった可能性が⁉」

「そうじゃなくてッ‼」

 妙にとぼけたビューティーがとっ散らかった叫びをあげるが、エイラスはそれを急いで否定しつつ話を進める。


「私ところもお父さんが勝手に決めるんじゃないかなって話! さっきも言ったけど、私のお父さんってウチの商会の商会頭・・・つまり一番偉い人なんだよね。だからさ、私なんかがなにを言ったところで多分聞いてはくれないんだよ。商会同士の取り決めだってあるだろうし、私は従うだけになりそうってこと」

「そういうことでしたの・・・父か母が外で子供を作っていたのかと思いましたわ!」

「なんで最初にそんな発想になるのかな・・・」

 要らない緊張をほどいたビューティーが胸をなでおろす隣で、代わりにジェーンの胸が騒ぐ。


「僕もそうしたい気持ちがあります。父の言う通りにすればいいかなって・・・でも、父は自分で決めろって言いそうな気もするんです。どうすればいいんでしょう?」

 逆に尋ねてくるジェーンへ便乗するようにバロンも問うてくる。

「お父様はなんていうかな? 僕や叔父様に・・・お爺様に従えって言ってくるかな? 言われたとして、僕らはなにをすればいいんだろう? それにもし、従うなって言われたらお爺様はどうなるんだろう? 叔父様はどう思う?」

 これには俺こそが自分で決めろと言ってやりたいくらいだが、正直に言えば俺も迷っている。


 兄上や・・・・・・ゴルドラッセに。御父上になにかあったのか、領地を出る時に変わったことはなかったか、そう問い詰めるべきなのかと迷っているんだ。

 だが、取り敢えず言っておかなきゃならねぇことがある。


「この場で決めるのはあくまでも指針だ。後から鞍替えをするなってことじゃねぇ。自分がなにを信じたいのか、その確認をして欲しいってだけだ。さっきも言った通り、俺達は皇都へ帰ったところで蚊帳の外にされる可能性が高い。どんな行動をとったところで、相手にされないかもしれない。それでも、行動する価値はある。例え僅かでも、望む形で決着させたいなら、なにが欲しいか、どうなって欲しいか、そのために自分がなにを信じるのか。キチンと考えてみてくれ」


 これは自問自答でもある。


 望福教を支持する御父上は、言わずもがな血のつながった親だ。

 その関係はどうあっても変わることはない。

 そして、それと対抗する現教会の最高権力者である教皇グレアムは他人だ。

 だが、それなりの時間を共にした友人であり、それなりの思いを共有した恩人でもある。お互いに利用していた節もあるが、それでもだ。


 そんな2人が宗教を理由に対立している。

 どちらに転んでも、どちらかの立場は危うい。

 そんな状況で俺は――どっちを選ぶ? どんな決着を望む?


 親子の情はあるはずだと、見たとこもない縁に縋るのか。

 確かに存在したと言える奇妙な縁を離すまいと握るのか。

 俺は・・・・・・選ばなければ、ならないんだ。

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