表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
537/946

間々の応酬

「腑に落ちない顔だね。どうしてかな?」

「わざわざ説明が必要か?」

「ですから、説明が必要なら私に言ってくださればご説明しますよ! そのために私の名前を! 是非!」

 三者三様。

 睨み合いは拮抗の様相を呈す。


 いや、こんなところで張り合われてもな。

 そう思いながらも、こちらから折れるわけにもいかねぇ。

 そんなことをすれば、そのままなし崩しにされそうだからだ。


「じゃあどうしよう? こっちの話を真面目に聞いてはくれないのかな?」

「そんなことはありませんよ。ですよね?」

 これに返答してちゃダメだな。

 是と返せば向こうの手の内の上、否と答えればまたくだらない言葉を重ねるだろう。


「子供達を、アイツらをどうするつもりだ?」

「悪いようにはしません。あの子達は私の教え子ですから、ただ少し私達に協力してもらうだけです」

 マルチナはすぐにそう答えるが、

「そんなこと――言わなくてもわかるんじゃない?」

 男の方は違うようだ。


「どういう意味だ?」

「それ、好きだねぇ? わからない振りのつもりかな? 面白くないよ?」

 一々癇につく態度を取る男だ。

「・・・・・・・・・・・・」

 それでも、俺が押し黙ったまま男を睨み続けると、観念したように男は口を開く。


「嫌だなあ? そんなに睨まないでよ。でも、本当はわかってるんでしょ? 確認したいから聞いてるだけでしょ? だって、考えないはずないよね? 貴方みたいな人がさ。なんで今ことを起こしたのか・・・気にならないはずないよね?」

「―――ッ‼」

 その言葉には少しばかり眉根が動く。

 なぜなら、確かに俺もそう考えたからだ。


 そして、その答えが出なかった。

 ―――――いや、出せなかった。


「だったら、答えなんてわかってるはずだよねえ? それほど馬鹿には見えないもんね?」

 おちょくるようなその態度とは裏腹に、口にする言葉には芯があった。


「――人質。それ以外になにかあるかな?」


 あっけなく男が明かした答えは、俺に反論の余地を与えなかった。

 だろうなと・・・納得せざるを得なかった。

 俺はその答えを否定したいがために、答えが出ないふりをしていたんだ。

 アイツらに、辛い思いをしてほしくないと。

 どこかでそう思っていたんだろう。


 蓋を開ければ簡単な話だ。


 なぜ、皇都へ行くのか。

 なぜ、今ことを起こしたのか。

 なぜ、この男がここにいるのか。


 全ては最初から仕組まれていたからだ。

 その根幹となる部分が学園だったってわけだ。


 不自然な人事。

 不自然な失踪。

 不自然な依頼。


 そのために、今学園に通う子供達は各地へと散り散りに飛ばされ、その引率は頼りない年配の教師。

 そこに現れるのは行方不明になっていたはずの前年までの教師。


 大した演出だ。

 子供達はその現れた元教師に頼ることだろう。

 もしかすりゃぁ老年の教師でさえ・・・。


 そこからは簡単な話だ。

 この学園に通う子供達は、そのほとんどが貴族の子息。

 その存在を盾に親に迫るんだ。


『望福教へ入信しろ』とな。

 いや、脅迫でなくてもいい。


 望福教のおかげで危機に陥った子供は助かりました。

 望福教のおかげで行方不明になっていた子供が見つかりました。

 望福教のおかげで―――。


 学園へ子供通わせている貴族全部を抱え込むことは出来ねぇだろうが、それでも多少の心付けぐらいは支払われるだろう。

 そうすりゃ今度は、それを元手に宗教戦争を理由に物流でも止めればいい。

 軍部を押さえてるんだ。それぐらい容易だろう。

 物の流れが止まるってことは、需要と供給のつり合いが崩れるってことだ。


 そうなりゃ自ずと物の値段が上がる。

 そこで望福教に入信していれば、買い物の一部を望福教が負担するだとか、望福教の息のかかった店だけが他より安く物を販売するだとかすりゃ、生活の苦しい庶民層はまるっと望福教の傘下に降ることになる。

 後は流れのままに・・・ってわけだ。


 くだらねぇ筋書きを描いてくれるじゃねぇか。

 かといって、この場じゃどうすることも出来そうにねぇ。


「それで・・・アイツらをどうするつもりだ?」

「さっきマルチナちゃんが言った通り、悪いようにはしませんよ。ちょっと協力してもらうだけで・・・」

 嫌味な顔で笑う男を。俺は必ずぶん殴ってやると、握った拳に力を込めて見据えておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ