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束の間の余韻

「祝勝会は今日だけだ。今日の内に大いに喜んでおけ。明日には領都へ向けて移動を開始するからな。そのつもりでいろよ」


 そう言って、ささやかな宴会の開催を告げると同時に歓喜の声が湧く。

 あちこちから子供らしいキャッキャとした楽しそうな声が漏れてくる。

 一般的な視点から見れば、やったことと言えば雑魚狩りに過ぎないのだが、それを子供の手で完遂させたのだから浮かれるぐらいの権利はあるだろう。


 つっても、宴会の規模は小さい。

 こんななんにもねぇ村じゃ盛大にってのも無理な話だからな。

 果実水と生野菜、現地で取れた肉ぐらいが精々の贅沢品だ。

 それでも、子供達にとっては楽しい時間。

 敵との戦いを振り返って、あの時はどうだとか、この時はどうだったとか。自慢とも反省ともつかねぇ話に花を咲かせてる。


「良かったんですか? 宴会なんて・・・」

 そんな中、雰囲気も考えずに聞いてくるのは女教師であるマルチナだ。


「勝利を噛みしめる時間は今しかねぇんだ。やらない手はねぇよ」

「でも、皇都が・・・・・・」

「んなこと言ってても仕方ねぇだろ? ここから皇都に戻るまで何日かかると思ってる?」

「それはそうなんですけど・・・」


 村長の家で聞いた話。

 皇都で起きた反逆と御父上の関係。

 気にならねぇわけじゃねぇが・・・・・・。


「ここで得られる情報はアレで全部だ。少なくとも領都につくまで新しい情報はねぇんだから、気にするだけ無駄なんだよ」

「あの子達に教えないのは・・・」

「いらねぇ不安を与えることもねぇだろう? それに、今はただ喜んでりゃいいんだよ。どうせ直ぐぶつかることになる」


 領都につけば反逆の件はどうあがいても耳に入るだろう。

 それなら今だけは純粋に勝利の余韻に浸らせてやりたい。

 さっきコイツにも言ったが、下手に教えて不安を煽ったところで、直ちに皇都へ帰れるわけでもねぇんだからな。


 だったら1つずつこなすべきだ。

 喜ぶべきことを喜んでから、領都で情報を集めて気を揉めばいい。


「反逆の内容――・・・気になりませんか?」

「まるで、なにか知ってるような口ぶりだな?」

「いえ、あくまでも予測です。思い当たる節があるといいますか・・・」

「聞いたところで状況は変わらねぇ。なにより、不正確な情報で惑わされたくもねぇ。憶測なら聞く気はねぇよ」

「・・・・・・そう、ですか」


「それより、アイツらがハメを外し過ぎないように声を掛けて回ってくれ。俺が行くと水を差しそうだ」

「名前で―――」

「頼んだぞマルチナ」

「はい!」

 何度目かのやり取りを終えて送り出し、俺は次の来訪者に問う。


「で? なんの用だ?」

「えへへ~。褒めてもらいに来ちゃった!」

 そう言ってひょっこり顔を出したのはエイラスだ。


「よくやった。・・・これでいいか?」

「ダメ! ぜんっぜんダメ! なにをよくやったのか伝わってこない!」

「そりゃ悪かったな。で? 本当はなんのようなんだ?」

「褒めてもらおうと思ったのも嘘じゃないよ? 私、大変だったんだから‼ 道具を用意したり、武器を持ってきたり、殿下を止めたり‼ 大活躍だったでしょ‼」

「そうだな。誰にも気付かれねぇような、目にも見えない功績かもしれねぇが、確かに大活躍だったよ」


「でしょ⁉ 道具の用意とか馬車の手配とかの細かいところををやったのはおじーちゃんだけど、ちゃんと現地で使えるように手助けしたのは私だもん‼ 今日の宴会だって、うちの出資あってこそなんだから!」

 おじーちゃんってのはサンパダのことだ。

 てっきり親戚筋かと思ってたが、話を聞けば直系も直系の孫娘だった。


 なんでまぁ、ここでいう”うち”ってのもマンサ商会のことだ。

 長距離移動を目的とする俺達が新鮮な野菜や肉なんか持ってるわけもなく、今日の宴会で出た分はマンサ商会の名前を出して村から買い取ったものになる。

 しかも後払いの信用買い付けだ。

 そのためにエイラスはマンサ商会の人間である証まで提示したのだから、れっきとした功労者ではある。


「それで、さっきはなんの話をしてたの?」

 だが、だからと言ってなんでも話してやるつもりはねぇ。


「お前らにはまだ関係ねぇ話さ」

「え~~⁉ まだってなに⁉ いつならいいの⁉」

「さぁな? 明日かも知れねぇし、1年後かも知れねぇな?」

 それに、後ろで聞き耳を立ててる連中もいるみてぇだしな。


 馬車の向こう側に張り付く気配はライザードとバロンか。

 喧嘩でもしてたようだが、2人でいるってことは関係の修復ができたのか。


 とはいえ、皇都で起こった反逆のことはまだ教えてやらねぇけどな。

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