現実にして
調子に乗るライザードになにか一言いってやろうかとも思ったが、まだやるべきことがある。
「アンタは子供達を連れて馬車まで戻って野営の準備をさせておいてくれ。まだ日も落ちてねぇが、子供にはもう長距離を移動する体力なんざ残ってねぇだろうからな。俺は洞窟の中の後始末をつけてくる」
「マルチナです。名前で呼んでください」
「・・・それと宴会の準備も頼む。勝利の実感を得るにはそれが一番だからな。俺が戻ったら報告に行く」
「・・・・・・・・・」
「その後に宴会だ。いいな? マルチナ」
「はい。わかりました」
名前を読んだら満足したのか、
「じゃあ皆! 馬車まで戻るから準備して!」
ニッコリ笑顔で頷いてから動き出す。
どういう意図があっての言動なのか、わからねぇのが面倒だ。
それでも、クツクツと笑うライザードも忘れずに連れて行ってくれる辺りは素直に助かる。ああなってる連中の相手はもっと面倒だからな。
それはそれとして。
俺は転がる屍を踏み荒らして、道中でバロンとジェーンが取り落した槍と盾を拾い、最後の敵だったデカいゴブリンの死体の前まで歩く。
「お前の命は都合よく消費させてもらった。謝りはしねぇが有難くは思ってやるよ」
そう言って、手に持った槍でデカいゴブリンの首を落とす。
これはゴブリン討伐の証拠だ。
それと、万が一にも息を吹き返させねぇための処置でもある。
焼け焦げた表面の皮膚はザリザリとこそぎ落とし、半端に硬くなった肉を切り裂き骨を断つ。
詳しいやり方を知らなけりゃ血が吹き出たりもするが、今になっても忘れちゃいねぇ。
ゴロリと落ちた首はどうしたもんかと迷ったが、丁度いいかと手に持つ。
少しとは言え髪が生えてるのは持ちやすくていいな。
右手には槍を持ち方に担ぎ、左手には盾を。その指には生首の髪を絡め、ぶら下げて進む。主のいなくなった洞窟を。
中に放った火はすでに消えていて、焦げた線が道筋を描く。
横溝にはもう生物の気配はねぇ。
そのまま奥に、奥に進み、それなりに開けた空間に出る。
ああ。酷い臭いだ。
糞尿や血、腐った肉や骨がそこら中に散乱してる。
その中には子供のものと思われる肉片や骨と、弄ばれ自我を失い肉の袋となったものが合計4つ。
まだ幼いからか戦闘に出なかった若いゴブリンが、主のいない間にその肉の袋へと群がり組みついている。
そして、更にその奥の部屋ではもっと幼いゴブリン共が身を寄せ合う。
肉の袋に夢中になるゴブリン共は、見下す俺の存在に気付かない。
「幸せそうで良かったなぁ?」
そう声を掛けた瞬間―――顔を上げたゴブリン共の首を飛ばす。
1つ、2つ――・・・突如巻き起こる殺戮撃に、ゴブリン共はなにも出来ず、肉の袋に張り付いたまま・・・戸惑うままに死滅する。
奥の部屋で縮こまり震えるだけのゴブリン共も、決して見逃すことはない。
普通ここまですれば、1匹ぐらいは逃げようとするもんだが、洞窟へ入る直前に持ってきたデカいゴブリンの首が効いたらしい。
アレはこの洞窟の主だった。
その主が首だけになってるんだ。逃げる脚も竦み上がる。
おかげで楽に後始末が片付いた。
最後に子供のものと思しき肉片と。弄ばれ、皮肉にも白く汚された肉の袋となったそれを焼却する。
その過程で身に着けていたものでもあればと思ったが、生憎と見つかりはしなかった。
声もなく焼け焦げていくそれらを見届けた後、俺は村へ戻った。
村へ戻り、子供達とは顔を合わせないようにマルチナだけに声を掛ける。
「報告へ行くぞ」
「村長のところですね? ですが、それだけでいいんですか? 行方不明の子供達は・・・」
マルチナがそれと言ったのはデカいゴブリンの生首。
「居たさ。居たが・・・もう居ねぇ」
「・・・なにも。持ってこなかったのですね?」
「必要なのは証拠じゃねぇ。純然たる事実だ。誰も、本当は見たくなんかねぇんだよ。愛した存在の変わり果てた姿なんざぁな。だから、毅然とした態度で報告だけすりゃいいんだよ」
「納得してくれますかね?」
「させるんだよ。そのための態度だ。崩すなよ?」
「・・・・・・・・・名前」
「はぁ?」
「名前で呼んでくれれば、出来るかもしれません」
「・・・・・・わかったな? マルチナ」
「はい! 約束します!」
なんなんだ⁉ このやり取りは・・・まさか、今後もやらせるつもりじゃねぇだろうな? 勘弁しろよ・・・マジで。




