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side――バロン1

 ―――・・・・・・僕のせいだ。


 殿下の言葉についカッとなって飛び出した。飛び出してしまった。

 どうしようもなく・・・不用意に・・・。


 そのせいで叔父様が‼

 僕なんかを助けるために、岩の下敷きに・・・⁉


 押し出される瞬間さえ、叔父様は敵を見ていた。

 滑り込ませるように腕を伸ばして、敵の目を奪った!


 なのに! なのに僕は―――‼

 なにも・・・出来ない・・・。


 ただ呆然と見ていることしかできなかった。

 岩に潰された叔父様の姿を。

 そこに広がる血溜まりを。

 ただ、見ていることしか・・・・・・。


 平地では血は流れない。

 お互いが引き合う力で盛り上がり、ブヨブヨとした赤黒い池を作り上げる。


 滑り込ませた腕も、飛び込んだ体も、岩に潰されて僕からは見えない。

 近くにあるはずの顔でさえ、見ることができなかった。


 それは岩の影になっているせいもあるけれど、でもそれだけじゃなくって。

 僕は―――怖かった。


 叔父様がどんな顔をしているのか、知ってしまうのが怖かった。

 もし、もし失望した顔がそこに在ったら・・・それに気づいてしまったら。

 そう思うと、僕は叔父様の顔を見ることができなかった。

 見ていることしかできなかったのに、見ることもできなかったんだ。


 どうしよう?

 どうすればいい⁉


 叔父様はもう戦えない。

 それは変えようがない。

 でもそうなると、皆が・・・⁉


「そんなこと言ってたって、どうにもならないよ‼」


 叩き付けられるような言葉に背が伸びる。

 振り返ると、そこには盾を構えたジェーンの姿が。


 誰よりも早く、誰よりも前へ。

 事態を理解して、自分にできることを。

 こんな速さで・・・―――。


 どうしてそんなことができるんだろう。

 騎士爵の家に生まれたって言ったって、僕みたいに軍の訓練なんか受けていないはずだ。

 それなのに、なんで・・・――。


 ――なんで僕にはできないんだろう。

 僕は教えられてきたはずなのに、備えろと・・・言われ続けてきたはずなのに。

 なんで・・・こんな時に! どうすればいいかすら、わからないんだ‼


「――でも⁉」

「僕は先生の指示でここに来た! まだ先生は死んでないんだ‼ 君のせいだって言うんなら、自分の手で助けようとは思わないの⁉」

「叔父様が⁉」

「そうだよ! だから、戦わなきゃ‼」


 どうやって⁉

 まず初めに思ったのはそれだった。

 こんな状態で声なんて、出せるんだろうか?

 本当は、ジェーンの思い込みなんじゃ――・・・⁉


『槍を受け取れ。使い方は・・・わかるな?』


 槍を・・・? 誰から?

 そんな疑問が浮かんだ瞬間に、叔父様の潰されていない方の腕が動く。

 その先にはエイラスが槍を持って待っている。


 行かなくちゃ‼

 この状況を僕が作ったんなら、僕がどうにかしなきゃいけない。

 そんな使命感に突き動かされるように、考えるより先に身体が動き出す。

 ジェーンに謝って走り出す。


 いつの間にか取り落した剣なんて捨ておいて。

 僕は僕に与えられた道を。


 けれど、奇妙な感覚が―――追われいてる、そう思わせた。

 顔だけで後ろを見ると、確かに大きなゴブリンが追いかけてきている。


 なぜ、気付けたのか。

 もしかしたら、音が聞こえたからかもしれない。


 間には盾を構えたジェーンが居る。

 僕はその陰に隠れるように、一直線になる様にしてエイラスの下へと走る。


 ジェーンは驚いたような顔をした気がするけれど、気付いてくれたかな?

 守って欲しい・・・それが1つ。


 でも無視されたなら、それでもよかった。

 ジェーンを避けて走るなら、僕が先に槍を手に入れる。

 そうすれば、振り向いて、僕が敵を止めればいい。

 そう思えた。


「はい! これ!」

「ありがとう‼」


 僕はエイラスが差し出してくれた槍を受け取る。

 その瞬間、後ろでゴイン! と音がする。

 振り向くとジェーンがゴブリンの一撃を受け止めていた。

 大きな拳を、これでもかと振り下ろされた拳を、勇敢に。


 ああ、早くいかなくちゃ!

 僕もあの場所に立って、戦わなくちゃ・・・!


 なんでだろう?

 駆け出す脚は震えもしない。

 しっかりと地面を踏みしめて、力強く押し出して進む。


 あれほど恐れたあの場所へ。

 命を取り合う戦場へ。


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