チラつく悪意
「これで全員か?」
「はい。たぶん・・・ですけど」
マーテルが外を確認して返事する。
緊急招集で集まったのが150ぐらい、残ったのは40弱。約4割か・・・。
「わかった。閉めてくれ」
「そこまでするのか?」
扉を閉めて、鍵までかけて。それを見たギルドに残った冒険者から声が上がる。
「あぁ。外の連中にはまだ聞かせらんねぇからな」
「一体何があったんだ⁉」
「蟻が出た」
反応は様々だが、意味が分からない奴は流石にいない。
「冗談だろ⁉」
「事実だ。さっきギルドマスターから連絡があった。商会で確認した結果、間違いないそうだ」
聞きたくなかったと、外に出ようとするやつも出たが、鍵を閉める段階で出入り口には受付嬢を配置してある。逃がすつもりはない。
「事の発端は3か月前。皇都から南に向けて隊商が出発した時のことらしい。その最後尾の荷車がトラブルで遅れたところを襲撃され、荷物を奪われた。中身は砂糖。やったのは蟻型のモンスター。全長1~2メートルで4匹。巨大な顎を持ってたそうだ」
「その全長で巨大な顎となると・・・致命的なか」
「まず間違いなくそうだろうな」
「それが3か月⁉ 冗談じゃねぇぞ‼ 俺は降りる‼」
致命的な蟻。一匹であればそれほど脅威ではないが、群れとなれば話は別だ。怒涛のように押し寄せ、その巨大な顎で足をやられれば最後、生きて帰ることはできないと言われるモンスターだ。
具体名が出たせいで本格的に逃げようとするやつが出るが、気持ちは分からないでもない。
蟻と蜂型のモンスターは巣を作っていた場合、尋常じゃなく増える。際限なく増える。1日単位で数百~数千とさえ言われるほどだ。
それが3か月間放置されていた、となれば逃げだしたくもなるだろう。辺りをかき分け、受付嬢らを押しのけ、鍵を外して扉を開ける・・・が、
「悪ぃが、皇都にいる以上、全員に手伝ってもらうぜぇ」
扉の向こうにはギルドマスターことブロンソン教官が待ち構えていた。
「俺達なんかいなくても大丈夫さ‼ 見たってのは4匹だけなんだろう⁉」
「バカやろう! ハナっから4匹しかいねぇなら隊商になんかちょっかいだすかってんだ‼」
首根っこを掴まれながらも、どうにか逃げようとする輩とのやり取りに、
「だとしたら女王はどこに・・・?」
他の冒険者が反応する。
毎日それほど増えるなら、3か月もしないうちに露見しているはずではないか? という尤もな疑問。
だが、そんな大所帯すらも隠せる場所が、皇都のすぐそばにある。それが、
「アスクレ岩床地帯だ」
「そうか! 旧採掘場か!」
大昔に枯れ、今では誰も踏み入らなくなった旧採掘場。
中には何もないが、それは人にとっては・・・だ。蟻にしてみれば、ちょうどいい巣穴に違いない。
それにしても、都合がよすぎる。
皇都付近どころか、国境ギリギリまで行かなきゃいないような蟻型モンスターが、なんでまた駆け出し冒険者のトレーニング場ぐらいにしか使われてない岩場に、女王を連れて現れたのか。
明らかな作為を感じるが・・・、それにしては意図が読めない。
冒険者ギルドを潰すにしても、目的が内乱ならやりすぎだ。ギルドの不手際であふれたモンスターが皇都民や周囲の町にまで被害を出せば、ギルドがなくなっても仕方ないと思われるだろう。冒険者からの文句は出るだろうが、それだけなら抑えるのは難しくない。
それとも、皇都や街に被害を出すことで国力自体を削るため・・・? いや、そっちの方が勢力を伸ばせるから・・・?
緊急招集の進行が教官に代わったことをいいことに、俺は裏にいるであろう誰かを想像してみるが、一向にその影を掴むことはできないままだった。




