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side――女教師

 私の名前は・・・・・・この際いいです。

 そんなことよりも主張したいことがあるからです。


 いきなりすぎるんです!

 なんなんですか! モンスターの討伐って‼

 私は、私達は教師ですよ⁉

 なのになんでそんなことを⁉

 しかも、子供達を連れて―――いいえ、子供達に経験させるなんて‼


 だから私はその話を聞いた瞬間に反論しました。

 そんな危険な行為をさせてはいけないと‼

 ですが、帰ってきた言葉は・・・”もう決まったことだからね”


 いったい誰がそんなこと‼

 私の憤りは募るばかりだったのですが、誰が? という問いには答えが返ってきました。曰く、学園の出資者であると。

 そう言われてしまっては私達にはどうすることもできません。

 雇われの身分ですから。仕方のないことです。


 私以外の教師の皆さんも困っていました。

 当たり前です。

 皆さんだって戦闘経験なんてほとんどないそうですから。

 それになにより、ここにいる皆さんは一度教職を引退し、隠居したような方々です。その理由は揃って年齢。


 皇都にそびえる貴族の子息を教える学園。

 教師にもそれなりの格というものが必要になるというのに、なぜか急な人材不足。そのおかげで私なんかがこの学園で働けているわけですが・・・格を気にするあまり教員が高齢に固まったのは災難だったでしょう。

 なので、口々に『こんな老骨に鞭を打ってみたところで役目を果たせるだろうか?』という不安ばかり。

 結局のところ。方針としまして、外の人間の力を借りることでどうにかしよう! となったようです。


 1人を除いて。


 それが私と同様に今年度から採用された若い男の教師。

 隣の教室を受け持つゼネスという人物。


 詳しくは知り得ませんが、彼はどうやら貴族生まれのご様子。

 そして過去には冒険者であったとか。


 同僚のことでさえ詳しく知り得ないのはこの学園の格式と風習のせいです。

 女は男に楯突いてはいけない。それが貴族の社会ですから。

 さぞ自由に生きてきたことでしょう。

 でなければ、あれほど不遜な態度は取れないはずです。


 問題のモンスター討伐という特別授業を行う過程でのことです。

 各種手配や移動時の工程。御者への指示など、全て我が物顔で。

 同僚で同行者でもある私には一切の相談も無し。

 決まったことを伝えるだけ。


 それで私にどうしろというのでしょうか?

 確かに楽ではありますよ。

 子供達の相手に時間を割けるわけですから、不満の解消や衝突の回避など、世話を焼けるというものです。


 ただそれでも、我慢できないこともありますし、慣れない環境というものは疲れるものです。

 もっと余裕をもって行動してもいいんじゃないですか?

 あくまでこれは特別授業であって、軍の行進ではないんですよ⁉


 ですが、それも最初だけ。

 私は己の未熟を知りました。


 移動だけでこれほどとは・・・それに、子供の世話の難しさも知りませんでした。

 あれをやりたい! これをやりたくない‼ と出来ないことばかり。

 理不尽なことを言っているのは私達なのか、あの子達なのか・・・わからなくなりました。


 そんな中で彼が受け持つ隣の教室は、私が受け持つ教室と違って子供達だけで取り決めを行い、それに従って行動しているように見えました。

 そう、まるで軍隊のような・・・。


 その中心にいたのは皇太子殿下のご子息であるライザード様。

 この年齢にして、たった1人でこれだけの統率力。舌を巻くとはこのことかと思うほど。

 同時に、不公平を感じました。

 よくよく思い出してみれば・・・彼ゼネスは学園長とも関係があるようで、ライザード様を受け持ったのも贔屓からではないですか?


 その逆もあります。

 学園長は1年生が入学してくる前から、今回のモンスター討伐という特別授業を知っていた。あるいは、画策していたのでは?

 そんな考えが浮かぶと、沈んできた憤りもまた動き出すというもの。


 領都セイルスルーではその憤りに任せて彼に楯突きました。

 ご法度と知りながら・・・。



 言い負かされました。

 完敗でした。


 私は貴族のご子息を預かる責任というものばかりを気にしていました。

 ですが、彼はそれだけではなく・・・いえ、それ以上に。

 子供達のことを考えていました。

 その自我や人格さえも。


 私は頭ごなしに上から目線で子供達のためだなんて言っていたのに、本当は私自身のためだったんだと思い知らされて心底ヘコみました。

 なんて浅はかだったんだろうと。

 子供達を。大事な生徒を。自分に都合よく動かすためだけに怒っていただなんて・・・。


 そんな傷心を引きずったまま、現地へと辿り着いてしまいます。

 こんなことを言うのはアレですが、私の今の心を映したような村でした。

 どこか淀んでいるような・・・そんな村です。


 そこでも彼は偉そうに言います。

 貴族として。

 こちら側がわざわざ来てやったのだと。

 そちらの事情など知らないと。


 村長さんが可哀そうに見えました。

 行方不明の子供がいるそうです。

 私は連れている生徒を思い浮かべ、出来るなら見つけてあげたいと思いましたが。彼は生徒達を思えばこそ、無駄な危険に踏み込むべきじゃないと考えたのかもしれません。

 その要求を跳ね除けたのです。


 村からの援助は期待できない。

 そんな状況でも、直ぐにモンスターの討伐に乗り出すという。


 私がまだなにもしないうちに、彼はハンターから情報を集め、事前の仕込みを行い、作戦まで仕上げたというのですから驚きです。


 しかし、本当に大丈夫でしょうか?

 そんな不安が的中することになるとは・・・私も思いませんでした。

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