責任の所在
朝っぱらから、緊急招集によって集まった冒険者でギルドはごった返していた。
普段ロビーにこれだけの人数が集まることはない。
皇都支部はそれなりに広いが、それなりでしかない。皇都に滞在する冒険者の数の方が多い以上、すし詰めに近い状態でも仕方がないだろう。
「てめぇ‼ 足踏んでんだよ‼」
「いってぇな‼ こっちだって同じなんだよ‼」
「うるせぇ‼」
「朝からなんだってんだよ‼」
「さっさと説明しやがれってんだ‼」
「騒ぐな‼」
そのせいか不満の声でざわつき、それを諫める怒号が飛び交う。話が出来る状態ではない。
しかしながら、自然と収まるのを待っていられるほどの暇もない。
俺は力一杯、カウンター横に設置されている簡易依頼板をぶっ叩く。
バァン‼ という音が冷や水のごとく辺り一帯に降り注ぐ。
束の間の静寂。
それを逃すわけにはいかない。
「本来なら‼ ギルドマスターから事情を説明するべきところだが、今は方々に手を回している都合上、指導員である俺から今回の件について話す!」
後ろにまで聞こえるように、出来るだけハッキリとした発音を心掛け、続ける。
「今回の件は! ギルド側の不手際でもあるが! ここにいる全員の不始末でもある! まずそれを念頭に置いて、聞いてもらいたい!」
「どぉいうこった‼ 説明しろぉ‼」
予想通りのヤジが飛ぶ。
俺は件の依頼書を片手に高々と掲げる。
奥の奴は当然、手前の奴でさえ目を細めたって読めないだろうが、構わない。
「ここに! 一つの調査依頼がある! 内容は! 辺りで見かけないモンスターに遭遇した! その詳細を調べてくれという依頼だ! 発行日は3か月前! それが‼ 今の今までここに残ってやがった‼」
「それがどぉした‼」
そうやってヤジを飛ばす奴と、黙っている奴。
違いは年季か、あるいは質か。
調査に限らず、依頼の中には残るものがある。なぜなら、冒険者にも選ぶ権利があるからだ。
その基準は主に、報酬。
自分たちにとって旨みがあるかどうか、だ。
残る依頼にはそれがないということだ。
なら、その残った依頼はどうなるか・・・答えは破棄される。
元々依頼には掲載期間が設けられている。その期間が過ぎればキャンセルとなり、前金を返還の上で依頼は破棄される。
だが、何事にも例外がある。
今回のように、依頼主が冒険者ギルドである場合など、だ。
「この依頼はギルドが依頼主・・・つまり! ここにいる冒険者が、率先して受けるべき依頼だ! にもかかわらず! この依頼は3か月以上に渡って、放置され続けた‼ ギルド側の不手際は、そうした場合に特定の誰かに斡旋しなかったこと! 残りはお前らの不始末だ‼」
それでも尚、文句を垂れる奴がいるが・・・それもほんの一部。残りは黙って聞いている。
これは、ほぼ全体がこの件を理解し、どうするべきかを考え始めたということだ。
その上で、
「そして‼ なんで今こんな話をしてるかっつーとだ‼ 駆け出しがこの地雷を踏んだからだ‼」
経緯につなげる。
静まり始めていた全体にまた、動揺が走る。
自分たちの怠慢の付けを、何も知らない駆け出しに押し付けるのか、と。
「詳細は個人等級B以上で知りたい奴にだけ教える! それ以外は各自で装備を確認した上で広場で待機しろ! ギルドマスターが戻り次第、指示を出す! 解散‼」
畳み掛けるように話を終わらせ、頭とそれ以外に振り分ける。
動揺していたこともあるだろう。不平も不満も、上がるより先に全体が流されてくれた。
表向きに責任を被せ、己のやるべきことを意識させ、指図することで疑問を挟ませない。
緊急招集はそれこそ、大勢が集まる。そのせいで、まとまるまでに時間がかかることが多い。だが、今回はそうも言ってられない。
事前の細工もあり、ここまではうまく誘導できただろう。
後はここから、事態の大きさに逃げ出させないようにしないとな。