side――バロン2
「それでは始めます‼」
男の人はそう言うと、両手の指を合わせて目を閉じる。
「宿の中に入りました。対象の特徴はどのようなものになりますか?」
「武器も持っていないのに両腕に籠手を嵌めていますね。後、偉そうです」
「見つけました。この人ですね」
とても少ない特徴で見つけられてしまう叔父様。
それでいいのかな? と疑問に思うけど、多分叔父様は気にしないんだろうなあ。
「あの教師の様子は? なにをしているのです!」
「なにやら言い争いをしているようです」
「言い争い? 誰とです?」
「若い女性です。会話の内容から、こちらの女性も教師のようですね」
「え⁉ 声も聞こえるの⁉」
とんでもないことを言うのでびっくりして声が出る。
「いえ、読唇術です。なので完璧に読み取ることはできません。その点はご了承ください」
「この僕がそれでいいと言った。だからそれで構わない!」
「流石ライザード殿下。恐縮です」
「そっか。良かった・・・・・・ん? 良かった、のかな?」
この場合何がよかったのかはわからなくっちゃったけど、うん。言い争ってるなら、その内容がわかるのはいいことだと思う。
「それで、なにを言い争っているのですか?」
「教育理念・・・いえ、仕事に対する意識? それも違う気がしますね。女性の方の言い分は、どうやら責任について苦言を呈しているようです。子供達の安全を預かるのが仕事ではないのか、と」
「ふむ。まあ当然のことですね。しかし、ここは領都。滅多なことはないと思いますが・・・あの教師はなんと?」
「今の殿下と同じようなことを言っていますね。ですがこれは・・・・・・そのままの言葉でお伝えしますね」
『責任っつー言葉の意味ぐらいアイツらにもわかってる』
『子供の好きにさせてなにが悪い?』
『自信に繋がるんだよ‼ 信じて、任せる。そこに意味があるんだろうが‼』
『アイツらはなにも考えずに生きてるわけじゃねぇんだぞ‼』
間は少し省いたけれど、叔父様がそんなことを考えていただなんて。
僕はどうしてかな。どうしようもなく嬉しい気持ちになった。
期待されてるんだって。頑張ればいいんだって。そう言われてる気がしたからかな。
そう思って殿下の方を見ると、殿下もどこかバツの悪そうな顔で、でも。
なんとも言えない、喜びを隠しきれてない表情だった。
「ライザード殿下は良い教師を持ちましたね」
「そんなことはない! それに、結局はこの僕の立場を利用して黙らせただけじゃないか! そんなことでは認められなどしない!」
「それって誰に認められないの?」
「この僕に決まっているでしょう‼ この僕に教えを与える人物が、生徒であるこの僕の立場を利用するなど言語道断‼ キチンと実力で示して貰わなければね‼」
「それって、どうやって?」
「それは―・・・すぐには思いつきませんが、どうにかして・・・です‼」
ではもう少し様子を見てみましょうか。という千里眼の人の提案を受けて、僕らはまだしばらく。叔父様の行動を見る。




