緊急招集!
まどろみに包まれた目覚め。
まだ寝ていたいと思うと同時に、いつ寝ていたんだとも思う。
身体も重く、動きも鈍い。
それでも一つ、伸びを入れて今日を始める。
「っあー・・・なに考えてたんだっけ?」
なにもなければ寝ていたところだが・・・結局、鍛冶屋での解散の際に明日も! と朝から来ると言っていたからな。そう何度も待たせるわけにはいかないし、同じ失敗を繰り返すのは無しだ。
身支度を整えて、装備を手に下へ降りる。
「今日は早いね⁉」
「今日も朝から来るって聞かないやつらがいてな・・・」
始業前の受付は人が少なくてもそれなりの忙しさがあった。
話しかけてくるミリーも両手に束の書類を持っている。
「良い事なんじゃない? 先生なんだから!」
「どうだろうな?」
なんだったか・・・? そうだ。昨日の夜のことで気になったんだ、ヨハンとリミアのこと。それと・・・。
「栄光ある騎士団はなにかやってるか?」
「ぐろりあ・・・? って、アレ? お兄ちゃんが指導してるパーティーの方だっけ?」
「あぁ。まだ指導してるとは言えないんだが・・・だからこそ、気になってな」
「ちょっと待ってね?」
手元の書類をバサバサめくって。
「うーん・・・特になにもないかなぁ?」
「・・・・・・」
「なにかあったの?」
「いや、昨日会ったんだが・・・なんつーか、自信有り気に”いまにみてろ”みたいなことを言われたんだよな」
「いまに・・・って言ってもまだなんじゃない?」
「”すぐにわかる”とも言ってたぞ?」
「ふむ? わかった! 聞いてくる!」
ミリーはシュバッと身を翻して、他の受付嬢に聞いて回る。
ほどなくして、誰かと一緒に帰ってきた。
「この子はマーテルのマーちゃん」
「は、はじめまして・・・」
素朴。というのか、派手さのない少女だ。
ミリーといい、ギルドにはこういう人材が集まるのか?
「はじめまして。それで? 栄光ある騎士団について、なにか知ってるか?」
「あ、はい。栄光ある騎士団の皆さんは私の受付に来て、討伐依頼を受けたかったみたいなんです・・・」
「討伐依頼・・・断ったんだよな?」
「はい・・・駆け出しということだったので、監督無しでは難しいです、と。その後は少しモメましたけど、先輩たちに言われていた通りにちゃんと断りました」
マーテルはミリーを見上げて、先輩と言われたミリーはえっへん、と胸を張っている。
まぁそうだよな・・・だったら?
「断った後で、一緒にモメるのを止めてくれていたパーティー内の人に、私達にも受けられる依頼ってないかな? と聞かれたので、調査依頼を教えました。近場への護衛依頼はなかったので」
「調査依頼・・・?」
生態調査報告書用の分布調査や街道の安全確認がほとんどのはずだが・・・それであんな態度になるか? むしろ、そんな依頼なら受けないよな?
「内容は?」
「えっと、これです」
すぐに手元から一枚の紙を差し出す辺り、要領がいい。
だが、その紙に書かれていた内容からは、仕事への理解のなさが垣間見えた。
「これはいつのだ?」
渡された依頼書には書かれているべき日付がなく、そのことにも触れず。気付かなかったのか? その重要さすらも。
「それですか? それは・・・えーっと、3か月前の・・・ですね。たぶん」
昨日のうちに気付いていれば‼ そう思っても、もう遅い。
「チッ‼」
思わず出た舌打ちに、ビクリとするのはマーテルだけではなく、ミリーもだった。
「緊急招集だ‼」
ダン‼ とカウンターを殴りつける音をギルド内に響かせ、俺は使うことなどないだろうと高を括っていた権限を行使する。
今はなにより、人手が必要だ!
これは事件の予感。
ここまで来るの長かったなぁ。




