備えねば
「っつーわけで、喜べ! ”特別授業:ゴブリン討伐”が決まったぞ」
俺は教室で高らかに宣言するが・・・、
「どういうことでしょう? 言っている意味が分かりませんが?」
返すライザードのその反応は芳しくない。
いや、仕方のねぇことだ。
決して生徒達が自ら待ち望んだことじゃねぇわけだからな。
「言葉通りの意味だ。お前達と隣の教室を含めた1年全員でゴブリン討伐に行く。場所は南の辺境伯領。領都セイルスルーから北西に進んだ先にある村の付近だ。移動に3週間。往復で1か月半。現地の調査を1週間。討伐期限も同じくで計2か月。俺達は学園を離れることになる」
「ですから! なぜ、そのようなことを、この僕を含めた未来ある生徒にやらせるのです⁉」
「学園の出資者達からの要請でな。帝国に動きがあり、戦争が激しくなる可能性を考慮し、最低限の能力を獲得してもらいたい・・・だそうだ。それが本当のことかどうかは知らねぇがな」
事の次第はまた聞きになるため、その真意まではつかめない。
そして、どちらにせよ断ることが不可能なのも知っている。
「この僕が誰だか、ご存じですよね?」
「ああ、もちろん。戦争が激しくなりゃ真っ先に狙われる賞与対象だろ?」
「―――・・・ッ⁉」
「ライザードだけじゃねぇ。お前らは少なからず、この国の内外に名の知れた貴族や富豪の出自だ。当然、戦場に放り出されりゃ狙われる立場になるし、狙う方からすりゃこれほどのカモも居やしねぇ。それを心配しての特別授業だろう。ご丁寧に人型のモンスターを指定してくれてるのもそのせいだ。戦場に出れば、逃げるだけでも死体を目にすることはあるだろう。その時に足を止めずに済むように、最悪の場合。覚悟を持って対峙できるように。そういう計らいだ」
「叔父様・・・覚悟をもって――っていうのは・・・」
「他にはねぇだろ? 殺す覚悟だ」
俺の言葉にバロンはビクリと体を震わせる。
いつぞやはその覚悟を持てずに迷い、最終的には俺が取り上げてしまった。
それは俺があの場を嫌いだという思いと、己の正義を信じたかったバロンとの利害が一致した結果だったが。本当に、戦争になるとするなら話は別だ。
戦争で語られる正義は勝者のそれだ。
負ければ悪と断じられる。どんな思いであったとしても。
だから、今回ばかりは代ってもやれねぇ。
つっても、今回の敵は人ではなくモンスター・・・人に近い形をしていようが人じゃねぇんだ。迷う必要なんかねぇ。
「あくまでも今回のゴブリン討伐は練習だ。人型だが人じゃねぇモンスターだ。遠慮するこたねぇぞ! 魔法実技で使った的と同じに思え。多少動くが、それだけだ」
そうは言ってみるものの、生徒達の反応は硬い。
まぁ、これは現地へ向かうまでに解すとして。
それまでは移動に必要な物資を忘れさせないようにしとけばいいか。
後は金の管理とか、団体行動時の規範もか・・・結構手間がかかるもんだ。
これは専用の冊子でも作るべきか?
いくつかの授業も潰して時間を割いた方がよさそうだ。
面倒だが、仕方ねぇ。
手を抜くわけにもいかねぇからな。
これを終わらせて帰るころには、色々――大きく変わってるはずだからな。




