魔法実技の授業:実践3
「先生! 私達も訓練すれば、先程のようなことができるようになりますの?」
「やってることは初級魔法を撃ってるだけ だから、努力次第でな。ああ! コラ待て‼ まだ一番重要な現代的魔法の使い方を教えてねぇだろうが‼」
早速‼ と腕まくりでもするかのような勢いで的を取りに行こうとするビューティーを引き留めつつ、現在において、最も実用的な魔法の使い方を教える。
「無視するやり方については最初に教えたからな。残った現代的な魔法の形。飽和させるやり方について説明するぞ。飽和・・・つまり手一杯にするってことだが、この方法は幾らでもやり様がある反面、これといった正解もない。だからこそ自由に考えて挑戦するべきなんだが、それだとわからねぇだろうから、基本的な考え方について教えるぞ」
俺は周りを囲んでいた生徒達を少し下がらせ、さっきまで使っていた的の隣にあった的の前に移動する。
なにしろさっきまで使ってた的は綺麗さっぱり無くなっちまったからな。
「あの的には魔力障壁を展開する機能と魔法を吸収する機能があるが、それらを運用できるようにするための魔法を検知する機能もついてる。だから、こんな風に軌道が曲がる魔法を撃っても、変わりなく吸収されるわけだ」
また最低限の初級魔法を、消し去った的の分空いた空間を使って、大きく曲げて撃ち込む。
結果は言った通り、火弾は的へぶつかることなく弱まり消える。
「これは人間も同じだ。基本的な魔力障壁の形、厚さは決めてあっても、相手の魔法が見えてるなら、それを見てから対応してくる。自分でも、できればそうするようにな。つまり、その対応の限界を引き出さねぇ限り、魔法は敵にゃ当たらねぇってことだ」
「そのようなことができますの?」
「できる。それが攻撃魔法だ。っつーかな、それができてなきゃ攻撃魔法なんてもんは廃れてる。そうじゃねぇから、厄介なんだよ」
「それは間違いありませんわね! では、どのようにするのでしょうか?」
「代表的なのは3つ。時間差・陽動・目潰しだ」
「時間差から説明をお願いいたしますわ!」
・・・と、やっぱりコイツはわかってて聞いてきてるな。
キューティーは魔法に明るくはなかったはずだが・・・まぁいい。話が進めやすくて助かるだけだ。
「先に言っておくが、この3つはあくまでも1人で魔法を使う場合の方法だ。百人単位で戦うなら、魔法使いは後から大規模な魔法をぶっ放すだけでいいんだからな。で、その時間差のやり方だが・・・さっき見せた曲がる魔法がわかりやすいだろう。曲がることで直撃までの時間と位置が変わる。これを利用すれば、相手の対応を超えることは容易だ」
「ならば、実演してくださいませ!」
なるほど、そういう感じか。
生徒に言われるがままってのもアレだが、進行としては悪くない。
すぐに的へと手を向け準備する。
「魔法の軌道を曲げる時に注意しなければならないのは、その途中に障害物がないかどうか。必要とあれば先に障害物を排除するか、あるいは攻撃の始点をズラしたり、発射を遅らせたりして、曲げなくても時間差ができるようにするか。なんだかんだ使いやすいのは上空を使った曲射だ。鬱蒼と生い茂った森や洞窟でもなけりゃ空に障害物はねぇからな」
そんなことを言いながら、俺は突き出した掌からどんどんと火弾を撃ち出していく。
真っ直ぐ飛んでいくもの、曲線を描くもの、直角を描くもの。
右に、左に、上に、下――は、ちょっと使い辛いから無しだ。
途中からは掌意外の離れた空中からも飛ばしていく。
高いところから発生させれば下へを使うこともできる。
斜め曲がったり、螺旋を描いたり。
的に当たる位置も一箇所では収まらない。
正面、左右、上下に背後まで。
全て魔法障壁によって掻き消され、残留魔力が吸収されていくが・・・。
20発ぐらいか? 当たったところで的の一部が点灯。
その後、ゆっくりと高度下げていき地面に落ちる。
「と、まぁこんな感じだ。これ以上的を壊すと支障が出るかもしれねぇから直撃こそさせなかったが、あれだけあっちこっちへ攻撃を振られれば、対応は手一杯になる。魔法の威力や属性を変えて更に情報を増やせば、かなり高い確率で魔力障壁を突破可能だ。特に、動きの遅い火や水の魔法と同時に雷みたいな速い魔法を混ぜるとさらに効果が見込めるぞ。それは2つ目の陽動にも掛かってくる話だから、よく覚えておけ」
おぉ~~‼‼ と。連射ほどじゃねぇものの、それなりの反応。
「時間差についてはわかりましたわ! ですが、先程の説明・・・陽動にも掛かる話というのは、どういうことですの?」
「陽動は元々、奇襲――意識外からの攻撃を行うための手段だ。要するに囮だな。別のもので注意を引いて、その間に攻撃するやり方だ」
「なぜそのようなことをするのでしょう? 大規模な戦闘では使われないのではありませんの?」
「そうでもねぇよ。と、言うよりな。陽動はその大規模な戦闘を疑似的に再現するための方法なんだ」
「どういう意味でしょう?」
「大規模な戦闘では魔法使いは後ろから攻撃する。そういったよな?」
「ええ、確かにそうおっしゃいましたわ」
「じゃぁ前には誰が居る?」
「それはもちろん兵士の方々ですの」
「そう。つまり・・・兵士が前で気を引くことによって、魔法で奇襲を仕掛けることができてるってわけだ」
「なんということでしょう‼ まさか、そのようなことが⁉」
ビューディーは驚いて見せているみたいだが、若干棒読みだ。
それじゃ演技がバレバレだが、指摘するのも違うな。
「事実だ。注意を引く方法はなんでもいい。兵士の振りをして殴りかかるってのもいいだが、敷居が高いだろうからな。さっき言ったように、遅い魔法や速い魔法を交えて使うのが一般的だ。油断させるための魔法でもあるから、囮に使う魔法にはあまり魔力を割かなくてもいいのが時間差との最大の違いになる」
「例えばどのような魔法がありますの?」
「例えばこんな・・・とかな」
その質問に俺は1つの魔法で答える。
「これは?」
チカチカと。中空を瞬く光りの玉が揺れる。
「不安定な光の魔法だ。半端に点滅するから視界に入ると気になるだろ?」
「ええ、とても気になりますわ」
「で、これを刺激するとどうなるか・・・だが。眩しいからな。目を瞑れ」
言葉通りに生徒達が目を瞑るのを確認してから、光りの魔法を破裂させる。
すると、光りの魔法は一瞬にして強烈な光りを撒き散らし、そして消える。
瞼越しでも眩しかったのか、手で顔を覆う生徒達が持ち直すまで待って、
「眩しかったか?」
あえてそう聞く。
「これ以上なく眩しかったですわ!」
ビューティーの力強い抗議へ続くように、生徒達から異口同音が発せられる。
「なら、その状態で攻撃魔法を撃たれたらどうなる?」
「・・・それが目潰し――ですのね?」
「そういうことだ。3つに分けて説明したが、その実。全てが独立した方法じゃねぇ。上手く絡めて使うのが一番賢いやり方だ」
「そうでしょうか? 私は目潰しがあれば、他の2つは必要ないように思えますの。だってそうでしょう? 見えなければ対応の仕方などありませんもの」
今度はそういう切り口か。
なんでまたこんなに話運びがうまいんだか。
「そうでもねぇよ。探知や検知の魔法を使えば、目に頼らずとも対処することが可能だ。なにより、あの的もそうだが、元より目がねぇ生物もいるからな。どういう方法が有効かはその時々で決まる。目がねぇ生物は聴覚や嗅覚が優れてたり、中には温度に反応するモンスターもいる。どんな時も、状況を見極めることが重要だ」
「とても勉強になりましたわ! 今日の教えは肝に銘じておきますわね‼」
これまたわかりやすい姿勢だこって。
こっちが勉強させられたような気分だよ。