子供のパート2
「まぁ構いませんよ。ここで下手に取り繕ったせいで、余計に詮索されても迷惑ですし」
ライザードは諦めたように息をつく。
「ですが、先程も言ったように特別な理由はありません。あなたが知る通り、父上は皇王位をお望みでない。であるならば、この僕が一足飛びに継承してしまえば、父上は皇王位という重荷を背負わずに済み、この僕の夢はかなう。お互いにとって都合がいいでしょう? それだけのことです」
「ん? んん?? それだと殿下が皇王様になりたい理由が変じゃない? なりたいからなるんじゃなくて、なりたくないからなるなんてさ・・・」
「親の役に立ちたいと。貴方は思わないのですか?」
「うっ! そう言われると・・・思う、かな」
「そうでしょう? だからこそ! この僕は一刻も早く大人にならなければいけないというのに‼ あの教師ときたら・・・・・・」
「それならそれで、叔父様に今の話をしてみたら? 授業内容を考えてくれるかもしれないよ?」
恨めしそうにぎゅっと拳を握るライザードを見て、バロンが提案するが。
「それはないでしょう。あの手の人間は自分の考えを曲げませんよ。贔屓をしないと言っていたでしょう? つまり、この僕を優遇しているように取れる授業の進行などするはずがない。それとも、貴方から言えば違うとでも?」
「・・・・・・違わないかな、多分。殿下の言う通り。叔父様は明確な理由でもない限りは態度を変えないと思う。お父様も叔父様の頑なさには参るって言ってたし・・・」
「兄弟でも無理ならどうにもなりませんね。親から言えばあるいは・・・とも思いましたが、良好な関係であれば軍に所属しているですね。残すは恋人でしょうか? 子供は居ないのでしたね?」
「うん。叔父様は婚姻もしてないから子供は居ないよ。恋人については噂にはなってるけど、あんな態度だったし・・・・・・」
「照れ隠し・・・といった可能性は?」
「ない――と、思う。あんなに険しい表情で凄んでたのに、それで照れ隠しだったら僕・・・、笑っちゃうよ」
くふっと漏れそうになった笑いを手で押さえてこらえるバロン。
「しかしそうなると手詰まりですね。弱みの1つでも握れば交渉の余地もありそうなものを・・・」
「でも、なんでそうまでして急いでるの? 皇王位継承ってまだ先の話なんでしょ?」
「それは最近―――」
と、口を滑らせそうになったライザードがハッとして言葉を飲み込む。
「いえ、なんでもありません」
「絶対になにかあるよね⁉」
「そのような事実はありません」
「どうして内緒にするの⁉ ねぇ⁉」
「一言でいうならば貴方にそこまでの信用がないからです。この僕の考え程度ならまだしも、それ以上を許せるはずがないでしょう」
「なんでさ! 僕は別におしゃべりじゃないよ‼」
「この状況でその言葉のどこを信じろというつもりです? 今のこの場はあなたが始めたおしゃべりですよ? いつどこで同じことが起きるか・・・」
固く目を閉じて首を横に振るライザード。
そんな相手の仕草を見てバロンは憤るが、
「あっ!」
つい目に映った光景に声が出る。
「なんです?」
「え? なんにもないよ?」
「そんなわけないでしょう‼ 明らかに、何かに気付いた声だったでしょうに‼」
「僕は口が堅いので教えません‼」
ふーんだ! と腕を組んでそっぽを向くことで対抗するバロン。
ライザードとしては無視してここで会話を終わらせても良かったのだが、なぜだか無性に気になってしまった。
ここを逃してはならないと、そう誰かが叫んでいるように。
「・・・わかりました。教えますよ。ですが、かなり重要な話です。国が揺らぐほどに。ですので、くれぐれも他言無用ですよ?」
「っ‼ 約束する‼」
「実は・・・ここ最近、お爺様。皇王陛下の体調がすぐれないらしいのです。それにより、近々に皇王位を継承するかもしれないと・・・」
「・・・・・・それだけ?」
「それだけとは何ですか‼ 皇王位継承は国家の重要な判断ですよ⁉ まだしばらくは現皇王陛下が安泰だと思われていたのに、急な交代となれば数々の利権が―――」
「殿下! 声が! 声が大きい‼」
「しまった⁉」
シーッ‼ と口の前で人差し指を立てるバロンと、急いで口を手で覆うライザード。
チラリと辺りを見回すが周囲に人は居らず、シン――と静寂が2人を包む。
「ふぅ・・・この僕としたことが・・・。それで? さっきのあっ! は、なんのあっ! だったんですか?」
「叔父様と学園長代理が2人で一緒に教員室から出てきたんだよ! それに、そのまま一緒にどこかへ行くみたいだったよ‼」
「なぜ早くいわなったのです‼ 後をつければ弱みを握れたかもしれないでしょう‼」
「だって・・・殿下が意地悪するから・・・それに―――」
「それに、なんです?」
「今ちょうど1階から出ていくみたいだよ?」
「追いますよ‼」




