宣言
あまりにいきなりの事で反応が遅れる。
恩寵だと・・・?
覚えもなにも、俺のギフトは”加護の恩寵”。
そのことを知っている仲間達からも視線が飛んでくる。
「覚えってのはどういう意味だ・・・? なにも、その言葉を知ってるかどうか聞いてるわけじゃねぇんだろ? それに関係があったらどうなる?」
《汝を狙う理由がなくなる》
「・・・・・・それも世界の意思か?」
《いいや。世界の理だ》
理と意思。
違いがわからねぇが、確か最初に聞いたのは理の方だったな。
「世界から魔力を奪う存在は生かしちゃおけねぇと。それが理なんじゃなかったのか?」
《そうだ。世界・・・あるいは他者から魔力を奪うだけの存在は生かしておくわけにはいかぬ。それを許せば、その者が世界を自由に作り変えてしまえるからだ。しかし、恩寵を持つ者は違う。恩寵を持つ者は他者に力を与えることができるからだ。それはすなわち、世界に選ばれた者であり、神に愛された者である。故に、殺しては・・・殺されてはならぬのだ》
魔力を分け与えるじゃなく力、さらには殺しては・・・を言い換えたのはなんでだ?
そんなこと言葉を使かっちまったら―――
「その恩寵ってのは、お前らにも関係があるのか?」
《恩寵を持つものが龍王になるのだ》
自分にも関係があると吹聴てるようなもんじゃねぇか。
《これは今までにない例だ。我らドラゴン以外に恩寵を持つ者など、未だかつて聞いたことがなかった。それ故、考えたこともなかった。だから汝を襲ったことは事故だと、そういうつもりはないが、起きるべくして起きた過ちだと理解してほしい。もし、汝が恩寵を持つ者ならば・・・だがな》
「俺のギフト加護の恩寵が、お前の言う持ってるに該当するかは知らねぇが、どう思う?」
《神より賜るギフトがそうであれば、間違いなく世界に選ばれたと言える》
そう言ってドラゴンが頭を下げると、
《今回の諍いは我が過ちであった! ここに深く謝罪の意を表し、敗北を認めるものである‼》
堂々とした敗北宣言を行う。
離れた位置でそれを見ていたジェイド達は、あっけにとられた後、尻もちをつくように腰を下ろした。
敵の言葉をなんの疑いもなく信じるんじゃねぇよ・・・・・・そう思うが、
「疑わなくていいのか? 俺の言葉を」
《片鱗はすでに見た。他者へ魔力の供給。やりようは他にも幾つかあるが、それでも。遠くにいる者達へ同時に分け与えるなど、恩寵を持たねば出来ることではない》
敵だったドラゴンからしてこうだからな。
釈然としねぇが一応は決着ってことでいいんだろう。釈然とはしねぇがな。
「間違いでしたで止められるんなら、なんで始める前に確認しなかった?」
《本来我らに与えられた恩寵は、龍王の記憶と共に次の世代へと受け継がれるのだ。故に、そのような可能性を考慮してはいなかった》
「加護の恩寵もか?」
《・・・・・・わからぬ》
「なに?」
《加護とは神の愛そのものだ。そんなものを司る存在が居れば、神に他ならぬとは思わぬか?》
「生憎、神様とやらを信じたことがねぇ」
《そうか・・・いや、致し方無いのかもしれぬな。己が身に神と近しい能力を持ち生まれてきたのだから》
「そういうお前は。世界の意思だとか、神様にでもなったつもりか?」
《我らは決して神などではない。さしずめ、代行か仕切りと言ったところだ。世界の意思・・・運命とでも呼ぶべきものを、つつがなく回すための役割を与えられたにすぎぬ》
「俺にはその違いがわからねぇがな」
《随分と違うものだがな。我らは運命を捻じ曲げようなどとは思えぬ。友がために、仲間がために、おいそれと命も懸けられぬ。情けなど捨て去り、世界の一部となることこそが我らの使命。そう思って生きてきた。そこに良いも悪いもないのだ》
力を持つ者の務めか矜持か。
そうしなければならないと。決められているのか、思っているだけなのか。
《しかし、こうして目の当たりにさせられると・・・・・・うむ、そうだな。羨ましくもあるな》
その目には、なにが憧れとして映ったのだろうか。




