土煙の中の再会
扉の先は見たこともない場所。
ジーナの先導にしたがって階段を駆け上がり表へ出る。
そこは町の中心部からは些か外れた位置。
だが、しっかりとその背中は確認できた。
「・・・・・・・・・」
「・・・行こう!」
「・・・ああ」
まだ距離はあるはずなのに、あまりにデカいその背中に言葉を失うほどだ。
ジーナの呼びかけに答えながら町の中心、そのにいるドラゴンへと急ぐ。
その道中。周りを見ながら走り進むが、町への被害はあまり見られない。
好戦的ではないのか? と思う反面、時折動くその姿はまるで戦闘中のようで・・・交渉か、逃亡か。戦っているのだとすれば、そこには誰がいるのか? なぜだかわからねぇが、嫌な予感だけがずっとある。
坂を上った先に現れた直線道。
20秒も走ればその背後へと至るところで、
「あぶねぇ‼」
並走するジーナへ覆いかぶさるようにして押し倒す。
瞬間、さっきまで俺達が走っていた場所をなにかが通り過ぎた。
その直後にバガァン! と木組みが弾け飛ぶような音が聞こえてくる。
「・・・瓦礫、かな?」
「たぶんな・・・」
音に奪われた視線を前へ戻すと、そこには濛々と土煙が立ち昇っていて、その手前にある建造物の上半分が見事なまでに消し飛んでした。
恐らく尻尾でも振り回したか・・・。
瓦礫が散弾のように飛んでこなかったのは幸運かもしれねぇな。
あるいは砕くような力じゃなく、断ち切るほどに鋭い振りだったか。
どちらにせよ、受けられるような代物じゃなさそうだ。
まぁ、そんな気はさらさらないんだが・・・などと、言い聞かせながら立ち上がる。
冷えた肝を闘志で温めるにも限度がある。
アレが触れたら終わりの厄災なのはもうわかった。会話は一応試みるが、無理ならさっさと諦めて、拾えるもんだけ拾って逃げよう。
ジーナにも怪我はなさそうだったんで、もう一度走り出そうという時に。
また、なにかしらが飛んでくる。
今度はなんだと目を細めると、さっきの建造物の残骸と比べて小さいっつーか・・・アレは人なんじゃねぇのか⁉
そう思ってみていると、高く打ち上げられていた人物が、長い放物線を描いた末にドン‼ ガシャン‼ と背中から地面に叩きつけられ、勢いあまってそのまま地面を転がる。
「おい! 大丈夫か‼ ―――っ⁉」
そんな状態の奴を放っておくわけにもいかず、俺達はすぐに駆け寄り声をかけるが、そこにはなんと―――よく見知ったはずの・・・けれど、今までに見たことがないほど、ボロボロになっている親友の姿があった。
「ゼ、ゼネスか・・・? なんで、こんなところ・・・に?」
「クライフ‼ そんなこと言ってる場合か‼ なんでお前があんなもんと戦ってんだ⁉」
すぐに抱き上げて問いかけるが、
「話を・・・しに、行ったんだが・・・」
「まずは治療だ‼ そのままの姿勢で支えておいてくれよ‼」
ジーナの言葉により会話は遮られる。
俺は言われるがままクライフを抱えたまま、ジーナの回復魔法による処置が終わるまで待った。
「ふぅ・・・これで大丈夫だよ。それにしても手ひどくやられたね?」
「ああ。助かったよ・・・っ⁉ すぐに、戻らないと‼」
いうや否や立ち上がろうとするクライフを俺たち2人で止める。
「待ちたまえ‼ いくら回復魔法による処置が終わったからと言って! そんなにすぐに動くものではないよ‼ ちゃんと体が回復しきるまで待たなければ処置をした意味がないだろう‼」
「そうだ! それに話は終わってねぇぞ‼ なんでお前らがドラゴンなんかと戦ってんだ‼」
「でも急がないと・・・皆が‼」
「皆ってのは誰だ‼ お前らだけで戦ってるんじゃねぇのか⁉」
「俺達はドラゴンと話をしに行っただけだったんだ・・・けど、ドラゴンの言っていることが、その意味がわからなかった。詳しく聞こうにも、ドラゴンはそのことについてそれ以上詳しく話してはくれず。しばらくしてから、町へ攻撃をし始めたんだ。俺達はそれを止めようとして・・・」
どうやら予想通りのことが起きているらしい。
なにが原因かは知らねぇが・・・少なくとも、サルベージにいる全員がドラゴンの要求がわからず。
その結果、戦闘へと発展したようだ。
「アイツの要求は?」
「理に反するものをここへ連れてこい。そう言ってた」
理に反するもの。
連れてこいっつーからには恐らく、どっかの誰かなんだろうが・・・なんの理に反しているのか、それすらわからねぇんじゃ見つけるなんざ不可能。
そうなりゃ当然だが、そんな要求はのみようがねぇ。
「心当たりはねぇのか?」
「君は私をなんだと思っているんだい? そんな都合よく答えを持ち合わせてはいないよ」
「そういったのは研究者とかにこそ居そうじゃねぇか・・・」
「君は私達研究者のことをなんだと思っているんだい・・・? 生憎だけれど、研究者というものは理を解明するために存在するんだよ。理から逸脱することが不可能なことは、研究者こそが一番よく知っているんじゃないかな?」
「だからそれを踏み越えようとして―――」
「それができていたら、すでにその名は知れ渡っているはずだね? けれど、そんな人物の名を私たちは知らない。無論、君もだ。それが答えだよ」
そりゃそうだな。
過去にこいつが書いた論文だかでさえ、学会に激震を走らせたとか言ってたからな。
勝手な想像でジーナに期待したことを反省する。
「それで? 他には誰がいるんだ? いや、違うな。何人いる?」
俺は重要なことだとわかるようにクライフに聞く。
少数人なら引き連れて逃げることも可能なはずだ。
怪我人も。1人2人なら抱えて逃げれる。
クライフ以外のメンバーも居て、動けるのなら、協力次第でもう少しどうにかなるだろう。
だが、それ以上となると難しい。
その場合は助ける相手を俺の基準で選び、選ばれなかった奴は置き去りにしなければならない。
少数人なら―――そう思ってクライフの言葉を待つ。
「・・・・・・正確な数はわからない。でも、」
この時点で、残っている数が少なくないことはわかった。
そうじゃなけりゃ出てこない言葉だからだ。
それでも、
「100人以上はいたはずだ・・・俺達は、時間だけを稼ぐつもりだった。なのに、どうしてこうなったんだろうな・・・」
多すぎるだろう‼
なにがあったらそうなる⁉
100人集まったからって、ドラゴンに勝てるわけがねぇのはわかるはずだろ⁉
「それと、まだジェイド達が―――」
「馬鹿野郎‼ それを先に言え‼」
なんであいつらまで‼
さっさと逃げろって、そう教えておいただろうが‼




