空回り
「―――ってわけだ」
「そうだったんですね!」
仕事があるからと早々に帰ったブロンソン教官を除いて、市場で買った昼食を冒険者ギルド近くの広場で食べながら、模擬戦の動きの説明をしなおした。
「行っていたことは理解できたのですが・・・」
訝しむようなリミアに、
「そこまでする必要はあったのでしょうか?」
そういわれ、ガックリと肩を項垂れてしまう。
いや、そうだよな。
考えてるだけで伝わることなんて存在しないし、遠まわしに言っただろ・・・なんて、伝わらなけりゃ言ってないのと同じなんだよな。
つっても、
『よく見てろ? 今から俺がお前らの理想や憧れになってやるぜ!』
とか・・・言えるわけねぇよな。
恥以前に役者不足もいいところだからな・・・。
「まぁ・・・なんだ。目標みたいなもんだ。なんにせよ、一人で・・・しかも、遠距離で戦えるようになりたいってんなら、相手の動きまで支配出来なきゃならねぇぞ・・・ってな」
どうにも締まらないが、それっぽいことを言うしかない。
「なるほど。そういうことでしたか」
幸い、それで納得してくれたのか以降の追求もなかった。
「それにしてもすごかったなぁ! 説明されても同じことが出来るとは思えないですよ!」
「それは確かに。魔法の多重発動は、やはりあれくらいは出来なければいけないのでしょうか?」
「出来るならその方がいい・・・ぐらいだろうな。魔法使いに求められるのはもっと別なことだからな。それに、それでどうにかなるんなら俺はここにはいねぇよ」
元パーティーメンバーのエリックを思い出す。
あいつは絵に描いたような天才だった。
単一の魔法を完璧な想像の具現化として使いこなしていた。
どんな時でも、たった一つの魔法で状況をひっくり返せる。そういうのが、魔法使いに求められるものであり、理想のはずだ。
だから、話を戻す。
「そんなことより、今回の模擬戦は装備決めるためのもんだったわけだが・・・なにか見えたか?」
もともとの趣旨は装備を決めるため、戦いの見本となること。
まぁ、その過程で幻想でもいいから憧れを・・・なんて、脱線したのは俺なんだけど。
「そうですねぇ・・・なんて言ったらいいんだろう? こう、思ったより近いというか・・・」
「わかります。遠距離というほど遠く離れていたとは思えませんでした」
「前に誰かいるわけじゃないからな。常に敵に狙われる以上、距離はどうしても詰められることになる。それでも距離を空ける為に必要になるのが・・・」
「90度と45度の回避!」
「それと軸ずらしですね」
答えを言うまでもなく、二人が続く。
「そういうことだ。攻撃直後ってのはどうしても動きが止まる。そこで直角に回避すれば、次の動きがどうしたって方向転換になる。だから距離が空くってわけだ。で、それをさせないために教官はフェイントを使ってきたんだが・・・気付いてたか?」
二人がそろって首を振る。
「”そんなんでいつまでもつんだ”とかなんとか言ってた時だな。そこまでは左右にしか避けてなかったし、左右どちらか避けさせたい方向を絞って動くことで、攻撃後と方向転換の隙を減らして追撃するっつーフェイントだ。犬系のモンスターには3回同じ方向に曲がれないっつー習性があって、そういう時に使う奴だな」
へぇーという声が重なる。
「犬用のフェイントに引っ掛かるわけにもいかねぇから斜めにも避けるようにしたが、あれは本来仲間と連携するときに邪魔にならないようにするためのもんだ。斜めに避ければ敵の前後左右が空くだろ? あらかじめ合図でも決めておけばスムーズに動けるしな」
今度はなるほど、が。
「その後は・・・ちょっとおもしろかったな」
その場面を思い出したんだろう。
「そういえば、軸ずらしはギルドマスターも嫌がってましたね? それほど近づきがたいのでしょうか・・・? ヨハン!」
あまりに気になったのか立ち上がり、二人してここで確かめようとし出した。
「街中でやるな。そんなこと。訓練になったらいくらでも付き合ってやるから・・・」
俺はそれを慌てて止め、
「そんなことはいいんだよ! それで・・・、装備の方は? 決まりそうか?」
半ば諦めて聞いてみたが、二人はお互い見合わせて。
「すみません」
「盾はあったほうがいいでしょうか・・・?」
「そうか・・・・・・」
あれだけ魔法をばら撒けば、そっちに目がいっても仕方ない。
意気込んで、迷って、張り切って・・・その結果がこれか。
しかもそれがバレてたってんだから・・・。
情けねぇ。
空を見上げる。
それが俺に出来る精一杯だった。
次回はやつが来る!・・・・・・・・・予定。