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side――ゼネス9

 切り付けられた傷の痛みはもうほとんど感じなくなった。

 血が止まれば多少視界が赤いぐらい気にもならねぇはずだった・・・が。

 血が止まらねぇ・・・。


「ご丁寧に毒まで塗ってあるとはな」

「ごめんね。正確には呪いだよ。効果はそう変わらないけどね。ただのナイフはもう品切れなのさ! 誰かさんのせいでね!」

 そういえば、すでにそれなりの数のナイフを弾き飛ばしたり叩き落したりした後だ。むしろ、その体のどこへそんなにナイフを隠しているのか疑問だったが、無限じゃないとわかっただけでもよかったのかもしれねぇな。


 だがこれで、視界は完全に奪われた。

 血が止まらねぇんじゃ拭ったところで意味がねぇ。

 下手に目を開いたって肝心な時に血が目に入りましたじゃ笑えねぇ。

 元から数の不利を背負ってるってのに、余計なハンデまで・・・。


 つっても、なにを思ったところでしくじった現実は変わらねぇ。

 この暗闇の状態でどうにかする他ねぇ。


「いや、油断したよ。まさか偽物野郎まで、こんなことを狙ってるとは思わなかった」

「私を・・・俺を侮るからだ‼ 自由騎士の名は偽りではない‼」

「どうだかな。それより、ギルドマスターが卑劣な手を使うじゃねぇか? 数的有利だけじゃ心許なかったのか?」

「そういうな。敵を弱らせるのは狩りの基本。冒険者にとっても常識だろう?」

 適当な会話を振って声を出させる。


 この部屋は広く、天井も高い。

 そのせいで音は反響する。

 折角しゃべらせてはみたものの、すぐ近くにいるパチモン騎士はともかく、ギルドマスターの正確な位置まではわからねぇか。

 後は、この薄ぼんやりとした魔力の気配を辿るぐらいしかねぇな。


「くっ⁉ またいきなり・・・‼‼」

「油断するな自由騎士! 手負いの獣は手ごわいものだ‼」

「そうだよ! それに、まだなにか隠してる! 手を抜いちゃだめだよ‼」

 無理に会話を振るより、殴りかかった方が声が出るな。

 などとくだらない感想を持つが・・・会話からの急襲すら防がれてんじゃ声を出させたところで先がねぇ。


 拳に伝わる感触は硬い。さっきまでよりも。

 仕方ねぇよな。

 ただでさえ、さんざん殴ったせいで表面が変形してるってのに、目が使えねぇせいで、盾がどこにあるのか、万全に構えられているのか、その角度は? 当たる瞬間は? それらがなに一つとしてわからねぇんだから。

 戦闘の効率は落ちる一方だ。


 しかも、

「――っつぅ‼」

 自称師匠はそれに合わせて強化魔法を解いた上で邪魔してきやがる。


 魔法を使えば魔力の動きが活発になる。場合によってはその流れが明確に伝わることすらあるほどだ。

 当然、それだけ気配が追いやすくなるなんてのは、もはや常識。

 だから魔法を解いて。さらには殺気だとか、そういった攻撃の意思をもはぐらかしながら手を出してきやがる。


 こんな状況じゃぁ避けようがねぇ。

 速くもなく、強くもなく、頻度だって多くはねぇ。


 だが、

「痛てぇんだよ‼」

 確実に当ててくる。

 それに引き換えこっちはといえば、足に迸る痛みに吠えると同時、暴れるように一蹴してみても当たりゃしねぇ。

 そして、そんなことをしていると。


「どうした? そんな雑な動きは命取りになるぞ?」

 足元から竜巻の予兆。

 しかし、動けば敵を見失う。

 魔力の消費は激しいが、避けずに発生した竜巻を防いで掻き消す。

 消したらまたパチモン騎士に張り付き、殴る。


「そんな粗末な戦い方で、本当にワンダーゴーレムを討伐したのか? あまり有効な手だとは思わないのだがな?」

「アレに有効な手なんざ存在しねぇだろ! 他に方法もなかったんだよ‼」

「確かにな。しかし、効果があるとは思えん。いかにその籠手が同じ素材だからといって、それでは貴様の拳が砕けるだけではないのか?」


「外装を殴ってりゃぁな‼ 歯車は外装より柔いんだよ! 歯車がイカレりゃいくらあの化け物でも動けなくなる‼ なにしろ人形だからな‼」

「なるほど・・・イカレているのは貴様の頭だ‼ とはいえ、飽きてきたな。それだけで勝てたとも思えんしな。そろそろ決着をつけようじゃないか! まだなにか隠しているなら、見せてみろ‼ これが本当に最後だぞ‼」


 こっちとしても、魔力の残りは少ない。

 決着は望むところ。


 さっきの魔法から、ギルドマスターの魔力の気配がハッキリとし始めた。

 目の前にいるパチモン騎士も、気配を濁すのが得意な自称師匠まで。

 本気で終わらせにきてるのか、その腹積もりまで嗅ぎ分けるほどの余裕はもうない。


 俺のやるべきことは条件を揃えること。


 あの時と同じ条件だ。

 魔力はもうすぐ空になる。

 魔法道具も確認済み。

 対象はここ最近で馴染んだとさえいえるジーナが作った転移扉。

 魔力を引き寄せることはいとも容易い。

 残りは―――・・・っ⁉


「うわぁ⁉ 見えてないよね⁉⁉」

「どうだろうな‼」

 背後から忍び寄る自称師匠の腕を掴んでぶん投げる。


 見えてもなければ、気配とてハッキリはしちゃいなかった。

 だがここまでの戦闘で。

 ギルドマスターと自称師匠。この2人のパチモン騎士への援護は完璧だった。理想的なまでの連携だった。

 必ずそこにいると、疑うまでもなく信頼できるほどに―――完璧すぎた。


 なら、俺がパチモン騎士へ仕掛ければ、自ずとそこへ現れる。

 これが、無駄に同じことを繰り返した結果の見極め。

 利用しないわけがねぇ。


 これで、ギルドマスターと自称師匠は1か所に纏められた。

 残すはパチモン騎士のみ。

 ありったけの魔力を込めて、外側から押し込むように強く。

 ひたすら強く殴りつける!


「うっ⁉ ぐぁ‼‼」

 ガッ! ガシャンガシャン! と勢いに押され、たたらを踏むような音が聞こえ、さっきまでより少し、さらにはっきりとした気配が並ぶ。


 挟んだ‼


 あの時。ワンダーゴーレムと戦っていた時。

 思い返して気付いたことがもう1つ。

 あの時だけ、俺は転移門と向かい合っていた。その向こうにいたあいつらの姿を見るために。

 そして、ワンダーゴーレムはその間にいたんだ。


「――まずいっ⁉ この場から離れろ‼」


 すでに魔力は空。転移扉とは向かい合い。かつてより魔力を繋げ、吸い上げるのも速い。

 なにかに気付いたギルドマスターが一早く声を上げ、それを聞いた自称師匠はパチモン騎士を掴み、3人仲良く飛び退き地面を転がる。


 ただ1つ。

 取り落された歪んだ盾のみを除いて。

 半端に宙に浮いていた盾は、時に忘れ去られたようにその場に張り付き、転移扉から俺へと流れる魔力に貫かれる。


 それはわずかにして一瞬の出来事。

 すぐに重力を思い出し、盾は地面へと墜ちる。

 ガン! ガラン! と倒れる盾はなぜか、中央だけが嫌に錆び果てていた。


「なにが起きた⁉ 俺の盾が⁉」

「これでワンダーゴーレムを仕留めたのか・・・」

「こんなもの。よく隠してたね?」


 立ち上がるもの、立ち上がれぬもの。

 そのどちらもが、なぜもう終わったような顔をしている?


「悪いがまだ! 終わりじゃねぇぜ?」

 籠手にすべての魔力を注ぎ込み、砲口を突き付け俺は笑う。


「「「――ッ⁉⁉⁉」」」

「これこそ俺の全力だ‼ 防ぐなり、避けるなり、止めるなり! やってもらわなきゃ終われねぇよな⁉」


 今まさに。それをぶっぱなそうというその瞬間!

 バッァン‼ と。けたたましく扉が開き、声が轟く。


「緊急連絡‼‼ 北のサルベージにドラゴン襲来‼‼ ドラゴン襲来‼‼ 至急応援を‼‼」

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― 新着の感想 ―
[一言] え、無理 引退している人を蛸殴りしていて、怪我をした上に魔力も尽きてる状況を作った現役が、頑張ればいいと思う 第一、100を越えたばかりの人を捕まえて、S級になれとか、仲間が欲し…
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