音ズレる異変
あれから数日が経過した。
ジェイド達一行は酒場であった謎の集会から、順調にサルベージでの活動へと順応していった。
最初こそ冒険者ギルドの位置を教えてもらえず、結局クライフに案内させることになったりもしたが・・・その後は色々と情報を提供してもらうことで、着々と馴染むことに成功し、今では依頼の帰りには酒場によってクライフ達を含む他の冒険者たちと広く交流出来るようにまでなっていた。
その一例として、依頼選びをクライフに助言されたりもした。
「ここに来たばかりなんだし、依頼は洞窟のより頂上のを受けた方がいいだろうな」
「なんでだよ?」
一応は皇族であるクライフに雑な言葉で対応するジェイド。
本人同士は気にしていないが、近くで見ているエイラには中々胃に来る光景だ。
「洞窟は狭いからな。複数人での潜入捜査に向かないんだ。武器も振り回せなかったりで慣れるまで大変なんだ。うちも、アンナが嫌がってあんまり行かないぐらいだ」
「うっさいわね! ちょっと動いただけで崩落が~とか言われちゃなんにも出来ないのよ‼」
「まぁアンナさんの武器が天井に当たるだけで暫くは撤去作業になりますからね。仕方ないかな」
冗談交じりの言葉にアンナが反応し、エリックが宥める。
「頂上にはそれがねぇって?」
「そういうこと。他にも、陣形を取りやすい・維持しやすい。とか、単純に見晴らしがいいから奇襲され辛いっていうのもあるかな? 洞窟はどうしても狭くて本来の陣形が取れなかったり、突然壁や天井からモンスターが飛び出してきたりもするからね。警戒するにも経験が必要なんだ」
言われて想像してみるが、いまいち実感はわかない。
これが経験の差なのか?
ジェイドが首を傾げる間にエリックが続ける。
「使える魔法にも制限がかかるからね。もし行くことになったら注意した方がいいよ。洞窟が暗いからって炎の魔法を使うと、最悪それだけで全滅しちゃうから」
「ど、どうして・・・⁉」
「僕もあんまり詳しくないけど、息が出来なくなっちゃうみたいだよ。だから、探索には魔力を込めたら光る魔道具か魔鉱石を加工した道具が必要になる。魔道具はジーナさん。道具の方はアルガムさんが取り扱っているから、必要になったら相談してみるのがいいかもね」
「その現象について、詳しい人とかって・・・?」
「うーん。ジーナさんのところなら誰か知ってるかもしれないけど・・・」
その話は途中からケイトとエリックの魔法談義になり、ジェイドはハブられた。
「けど、依頼の報酬は洞窟の方が安いのはなんでだ? 普通は危険なほど報酬が良くなるもんだろ?」
「ああ。それはあくまでも調査依頼だから、だな」
「調査・・・頂上の方は違うのか?」
「頂上の方は基本的に討伐依頼となってることが多い。理由はいろいろあるだろうけど、結構な人数が受けるから共闘になったり、相手が弱ってたりすることもあって、そういう意味でも新参向けではあるかな。そこでの交渉なんかで自分達の存在を周知させたり、良くも悪くも誰かと出会うようになってるんだと思う」
「洞窟でそれが出来ない理由はさっき言ってた・・・」
「複数人での行動がやり辛いから・・・っていうのはあるだろうね。それが調査依頼になる理由でもあるのかもしれない。小数人で討伐となると、それこそ危険度が跳ね上がって報酬が高くなるからね。後は旨みの問題かな?」
「旨み?」
「洞窟には鉱脈があって、少人数であっても稼ぎが出しやすい。モンスターの素材も頂上側に比べて買取金額が良かったり、珍しいものが見つかり易かったり。だからギルドも調査はついでぐらいに思ってるんじゃないかな?」
動員人数が多ければそれだけ稼ぐのは難しくなる。
消耗する量が増えるからだ。
だからこそ、2つを比べた時。動員人数が多くなる頂上側の報酬金は高く設定されているのかも・・・ということだ。
そういう話を参考にしつつ活動することで、多大な苦労を掛けずに新しい環境に適応出来ているわけだ。
他にはリミアがフェリシアへ。
『最近の教会の内情について質問があるのですが・・・』
『私も今は直接所属しているわけではありません? あくまでも教皇様の友人としてなら・・・』
といった不穏なやり取りもあったが、こっちはあまりにも個人的な話になるので伏せておく。
それらを聞いていたヨハンの感想としては、
「もしそんなことが本当にあったら世界がひっくり返っちゃうよ?」
とのことで、少々行き過ぎた内容だったことは言うまでもない。
アルガムやジーナは酒場へ顔を出したり出さなかったり。
アルガムが顔を出さないのは仕事のせいで、ジーナが顔を出さないのは研究のせい。
そして、アルガムの仕事が忙しいのはジーナの研究のせいで、それに対してお互いに『早くしたまえ!』『無茶言うな‼』というやり取りが、なぜか酒場で顔を突き合わせた時に行われている。
わずか数日。
10日にも満たない日数で出来上がったそんな関係を、全員がどこか心地よく感じながら過ごす日々に―――突如として異変が。
ある朝のことだ。
「今日、なんか暗くねぇか?」
サルベージで誰かが言った。
「そうだな? でも太陽は―――って⁉ おい‼ アレ‼」
道行く誰かが天を指差し地面へとへたり込む。
町の中央。
いつもは多くの露店が埋め尽くし、市場と化している広場に。
まだ冷たく滴る朝の風を切り裂き、降り注ぐ光を遮るほどに空を覆い、積み立てられた資材を薙ぎ払いながら、それは降り立つ。
《理に反する者よ‼ その姿を現すがいい‼》
あまねくものに。
正しく。等しく。
確かに聞こえた。
けれど、それは間違いなく。
人ならざる者の咆哮であった。




