及ばずは想像と存在
「また会ったね。ケイト君。それにしても珍しい組み合わせだね? なにかあったのかい?」
「いえ、これはその・・・偶然? というか・・・」
「ここにおらん奴が縁を結んだってところだな。それと悪いがな嬢ちゃん。注文の品はここにはないぞ。下手に工房から持ち出すわけにはいかんからな」
「えー⁉ またしても私の貴重な時間を無駄にするつもりかい⁉ 私は今、忙しいんだよ? ゼネスのおかげで新しい研究対象が見つかったからね! 一刻も早くその研究に取り組みたいというのに、この仕打ち。どうしてくれようか・・・」
「そうは言われても仕方がねぇだろ⁉ 失くすわけにも傷付けるわけにもいかねぇんだ! 保管はきっちりとしとかねぇと!」
怪しく目を光らせるジーナにたじろぐアルガム。
それに割って入ったのはクライフ達だ。
「ゼネスに会ったのか⁉」
「当然だろう? 彼が私に会いに来ないわけがないからね」
「なんか、そう言われると嘘臭いわね」
「なぜだい? アンナ君、君も。彼と私の間柄を知らないわけじゃないだろう?」
「だからに決まってるでしょ! アイツが自分からアンタのところへ行くわけないじゃない‼」
「そうですね。ゼネスさんは僕にも、ジーナさんには近付くなって言ってましたし・・・」
「ふっふっふ。それは嫉妬というものだよ。彼は私に男である君と仲良くして欲しくなかったのさ!」
「いえ、無闇に近づくと拉致されて結婚させられるかもしれないから絶対に近付いちゃ駄目だって、真剣な顔で言われてましたよ? ジーナさんだけじゃなく、”全ては魔法の上に”自体と関わらないように。とも」
「・・・・・・残念だよエリック君。君が”全ては魔法の上に”へ属していれば、彼が私と会いに来た暁には、私の部屋へ招待できたのだけどね」
「なぜ所属していなければならないのですか? 私達とゼネスさんの関係を知っているあなたならば、私達を招待することに躊躇われる理由などないのではないですか?」
「私も年頃の乙女だからね? おいそれと独り身の男を部屋へ招待するわけにはいかないさ。さらにそこへ複数の男を・・・なんて言われてしまっては家名にも傷がついてしまうからね」
クライフからアンナへ。さらにはエリックからフェリシアまで。
怒涛の対応を軽やか? にこなすジーナ。
途中沈んだ顔が見えた気がするが、きっと気のせいだろう。
しかし、
「ジーナ様? その割には確か・・・ゼネスさんを1人、部屋へ連れ込もうとしてませんでしたか?」
そんな優位性もケイトの一言によって瓦解する。
「―――ッ⁉ そんなことはないよ‼ アレはほら! 彼が私の部屋を見たいって! そう、強引なくらいに言うものだから仕方なく――‼」
「嘘ねッ‼ アイツはアンタのこと結構煙たがってたから。本当はどうせ、アンタが強引に部屋へ連れ込んだんでしょ‼ なにが乙女よ、この変態‼」
「なぁ――⁉ 君も私が変態だと言うのかい⁉」
「そういえばゼネスさんもジーナさんのことは変態野郎って呼んでましたね? もしかして・・・本当にそういう趣味だったんですか⁉ 流石に話半分だと思ってたんですけど!」
「半分すらも合ってないね‼ 私は変態ではないし‼ 野郎でもないのだから‼」
「であるならば、なぜそのようなことをしたのか・・・納得のいく説明をしてくれるのですよね?」
場の雰囲気とクライフたちの反応から調子に乗ったジーナは、思わぬほどの抵抗を受けて苦し紛れの状況。
そこへ、
「落ち着いて話を聞けばいいんじゃないか? ゼネスとどんな話をしたのか。それさえわかれば誤解だってとけるだろう?」
救世主を装って、様子見に徹していたクライフがとりなすように言う。
だが、気付いているだろうか?
これはクライフ達にとってのみ都合のいい提案だということに。
なぜならジーナ側には本来、黙秘する権利があるはずなのだ。
例えどれだけ仲のいい間柄であっても、隠し事や秘密の全てを共有しなければならないという決まりはないのだから。
にもかかわらず。
宥めるように、冷ますように、これが中間ですよと言わんばかりに。
とりなすように見せかけた提案。
この卑怯ともとれる会話の主導権を握るやり方は、ここにはいない誰かの影響が強く出ているのだが、それに気付けるものはここにはいなかった。
そして。
予想外の人物の登場を受けて、いよいよ自分達が蚊帳の外になりそうな気配に、どうしようかとジェイドは頭を悩ませていた。