手練・修練・試練4
伸るか。反るか。
どちらを取るかというところで、先に動いたのはヨハンの方だった。
時期尚早と思われるような単機での仕掛け。
翼竜の視線がヨハンから外れたと同時に、背後から地面を滑るように腹の下へ。
ダガーを投げつけながら、右手につけた籠手から闇の魔法を放出する。
投げつけられたダガーは僅かに翼竜に傷をつけ、しかし刺さることはなく弾かれ、その後に飛び出した魔法は攻撃というより、目くらましか。黒いカーテンのようなものが翼竜の足元に広がっていく。
当然、それに隠れるヨハンの姿は見えなくなる。
しかし、翼竜はすぐさまその状況を打破するべく、身体を捻って身構える。
どうやら、その体躯をコマのように回転させて撃ち払うつもりらしい。
体を起こして飛び上がりながら回転すれば、尻尾で地面を掃くことは可能だろう。
それならば、相手がどこにいるかなどにかかわらず、広く対処できる。
逆にヨハンからすれば、見えてねぇはずなのに尻尾が突然に、予想できない暴れ具合で現れるわけだ。
そんなもんを防ぐのは不可能と言っていい。
直撃をもらえばヨハンの戦線離脱は決定的。
そうなってしまえばエイラも回復に手を取られ、一気に戦線が崩壊する。
ジェイド達にそれを阻止する手立ては・・・と、視線を移すと。
一個に纏まったまま動く気配がねぇ。
切り捨てるつもりか――⁉
いや、どう頑張ったところで、どうにも出来ねぇこともある。
この後をヨハン抜きでも切り抜けられるような算段があれば、それはある意味で正しい選択だ。
暴走にも近い独断先行を止められなかった時点で、助けられねぇと判断したのかもしれない。
そう思った。
痛い思いもするだろうが、これも経験。
後に生かせばいいと。
だが甘かった。
翼竜が飛び上がる瞬間だ。
その瞬間に、ケイトが杖を持った右手を大きく天に掲げ、
「ルーイングブリッツ‼‼」
高らかに謳う。
裁定を下す稲妻の名を。
澄み渡る青と白から溶け出たような衝撃が翼竜へと降り注ぐ。
広域を焼き払う落雷の大魔法。
まだケイトが完全に掌握出来る代物では無いはずだが、それらは不自然に吸い寄せられるようにして、翼竜へと突き刺さる。
最初の一撃こそもろに食らった翼竜だったが、続く稲光は頭上に分厚い魔力障壁を作ることで軽減している。
翼竜も降り注ぐ魔法の挙動を不可解に思ったんだろう。
どうにか移動しようと試みるが、足元に広がった黒いカーテンが絡みついて離れない。
あれには姿を隠す以外に動きを阻害する目的もあったのか。
そのまま1分余り。
翼竜は抵抗空しく稲妻に撃たれ続けることになった。
重傷ではないものの、文字通り足場を固められた翼竜に対して、
「まだやんのかよ?」
勝ち誇るジェイドの一言に、
「グルァグルゥ」
翼竜が首を振ったことで決着。
予想を超えるほど一方的な結果だった。
これならもう本当に。
こいつらのこの先を、心配するのは野暮ってもんだな。




