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嫌な岩場から言わばさらば

「・・・おぉ~‼」

 誰かから、あるいは全員から感嘆の声が漏れる。


 1本の木さえ生えない岩肌をさらす山の坂を上りきった先。曲がり角の向こう側には、見下ろす限りの森とそれを囲うように左右へと延びる岩山の壁。

 南の霊峰ことアドレスを麓から半周し200Mほど登っただけだが、チャード集合国は山に囲まれた窪地に出来た国。


 遮蔽物無しで見渡す景色は、それなりに目を見張る。

 ガルバリオ皇国では珍しい岩場から、森を見下ろすという状況は中々に対比が効いていて美しく感じるんだ。


「ギルドの本部って、あの森の向こうですか?」

「そうだな。まだ随分と向こう側になるな」

「そういえば先生はギルド本部から招集を受けていましたね。このままサルベージまで同行して頂けるのでしょうか?」

 ヨハンの質問から思い出したようにリミアが聞く。


「いや、俺は途中までだ」

「途中まで・・・ということは、途中に停車場があるのでしょうか?」

「こんな山ん中にまで乗り換え用の停車場は作らねぇよ。とある場所まで行きゃぁ後は歩きだ。っつっても、近くの集落まで行くだけだがな。そっから本部までは索道で向かう」


「索道ってなんですか?」

「索道ってのはチャード集合国に広く普及してる移動手段で、空中に縄を繋げ、そこへ吊り下げた籠で人や物を運搬する乗り物のことだ。下に見えてるあの木は実際には100M以上の高さがあって、下から見上げると結構壮観なんだぞ」


 初めて乗る時には、その足場の心許無さに竦みあがるほどだが、高所が故にモンスターも近付き辛いのか事故もほとんどなく、馬車ほど揺れねぇこともあって意外と快適な乗り物だったりする。

 他の場所にも設置して欲しいぐらいだが、あんな背の高い木が生えている場所は多くねぇし、地域によっては高所でも平気で近寄ってくるモンスターもいる現状じゃぁ実現は厳しそうだ。


「へぇ~! 見てみたいですね!」

「サルベージで活動してりゃその内、乗る機会もあるだろうさ。サルベージからならチャードへ向けての馬車も出てるし迷うこともねぇ。なんだかんだ言ってもサルベージは山の上にある街だ。色々と不便だし、品揃えも悪くて足を延ばさなきゃならねぇことも多いからな」


「わざわざチャード集合国側へ行く必要が? 朝まで滞在していた麓の町ではいけないのでしょうか?」

「そっちへ行く乗合馬車はねぇからな。基本的にはチャードへ向かうことになるだろうよ」

「今回と同様、隊商に同行させてもらうわけには?」

「出来なくはねぇが・・・高くつくぞ? 買い出しに行くってのに、無駄な出費は避ける方が賢いと思うがな?」


「なぜでしょう? 今回のように護衛としてではいけないので?」

「なに言ってんだよ。麓までの護衛なんて依頼があるわけねぇだろ? どれだけ短くても領都セイルスルーまでだ。それに、例えそれがあったとしても、今度はセイルスルーからサルベージまでの依頼がねぇよ。大概は出発地点で護衛を募るし、元から冒険者を抱え込んでる商会も多い。そんな隊商に商品の代わりに自分達を乗せてくれって言うんだ。それなりの額を要求されるのは当然だろう」


「なるほど。それは確かに先生の言う通りですね。では、乗合馬車がないのは・・・?」

「隊商の邪魔になるからだ。ある程度幅があるとはいえ山道だぞ。ここだって馬車2台がすれ違えるほど広くはねぇだろ? そこを何台も連なる隊商が通るんだ。その間を縫ってまで乗合馬車を出そうなんて物好きはいねぇさ」

「納得のいく理由ですが・・・不便ですね」

「山の上だからな」


 そう。

 ここは山の上。

 道を踏み外せば、山肌を転がり落ちることになる。

 そこには滑落を止めてくれる木の1本すらもなく、そうなれば這い上がることも望めない。

 そんな岩場を見て、顔が強張らせているのはジェイドだ。


「嫌なことでも思い出したか?」

「ッ⁉ なんでもねぇよ!」

「あの時と比べりゃ、今のお前らは別人と言っていい。考えすぎるなよ」

「別にッ‼ ・・・・・・いや、それならいいんだけどよ」


 ガルバリオ皇国では岩場というのは珍しい。

 だが、皇都の近くには存在する。


 林の中。突如として現れる岩肌と切り立つ崖。

 アスクレ岩床地帯。


 生息しているモンスターの数が少なく、強力な個体も居ないことから、等級の低い冒険者たちが修練場のように使っていた場所。

 こいつらはそこで強敵と出会った。


 致命的な蟻。

 当時の”栄光ある騎士団”では到底敵わない相手。敵いようのない相手。

 しかもその数は100を優に超えていた。


 死を覚悟した苦い思い出。

 自らの失態で仲間に大怪我を負わせた辛い記憶。

 どうしたって忘れられるはずがねぇ。拭いきれねぇ痛みがある。


 それでも、踏み越えていくんだ。

 それが出来ると信じている。


 例え、またこの岩場で強敵と対峙することになろうともだ。

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