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食事忸怩

「―――ってな感じで、帰って来られなかっただけだ」

 丸1日もどこへ行っていたのか?

 ヨハンとリミアに問い詰められ、あったことのあらましを説明しつつ、宿の机に並べられた豪勢な食事を口に運ぶ。


「そうだったんですね。というか、そんな凄い人がこの町にいるんですね」

「そうであっても、連絡の1つくらいは出来たのでは?」

「この町はチャード集合国の中じゃぁかなり栄えてる町だからな。それに、悪いとは思ってるさ。ただ、その結果がこの豪勢な飯だ。それを食ってる以上、文句は受け付けられねぇな?」


「情報の後出しは卑怯だと思うのですが?」

「最初に疑問として聞かなかった奴が悪い」


 しかめっ面で文句を言いたそうにするリミアだが、ジーナの用意した飯はかなり美味かった。

 そのせいで、リミアは言いたいことも言えなくなってしまったらしい。

 原因はあいつにあるが、文句を言わせねぇ手腕はやはり大したもんだ。

 虐げられていた世界で幅を利かせているだけはある。


「私達の方は構わないからいいのだけれど、あんまりリミアを悪者にしないで頂戴ね」

「悪者なんかにゃしねぇよ。そもそも、酒飲んで体調崩すような奴が居なけりゃ、この町での滞在はもっと短かったはずだしな」

 俺がいない間、エイラに介抱され調子を取り戻したジェイドに視線を送る。


「俺様は・・・・・・そこまでじゃなかったし」

「そうですわ! 悪いのはこの私‼ 本当に申し開きもございませんわ‼」

 ぎこちなく視線を逸らしたジェイドの隣で、キューティーは心の底からの謝罪をして回る。

 リミアとしても、そこまで頭を下げられるとやりずらいのか、ちょっとあたふたしているのを見るのは面白い。


「で? お前はそれでいいのか?」

「うるせぇ・・・」


 チラっとこっちを見たかと思えば、

「・・・・・・悪かったな」

 一応。全員に聞こえるような声量で謝ってみせた。


 頭を下げるような真似をしねぇところはらしさとして受け取っておくさ。

 俺も、俺以外もな。


「なに笑ってんだよ! お前らも‼」

 周りから聞こえるクスクスという声に、ジェイドが立ち上がろうとしたところで追加の料理が運ばれてきた。


「本当に豪勢ですね・・・食べきれるかな?」

「後から来る料理はある程度だが日持ちしそうなもんばっかだし、その辺も考慮してってことだろう。食いきれなきゃ保存しておけばいいさ」


「これだけ美味しい料理を数日続けて食べられるのは有難いですね」

「そうね。でも、保存するには入れ物に困るわね? なにかあったかしら」

 エイラが荷物を確認しに行こうとするのをジェイドが止める。


「こっちで用意しなくても宿に言えば箱ぐらい寄こすだろ。にしても・・・料理こそ豪華だが、飲み物が水だけってのは味気ないんじゃねぇか?」

「ジェイド様! 今また体調を崩されるのは⁉」

「別に飲みたいとは言ってないだろ⁉ ただ、こういう料理には酒が付きものというか‼ それに俺様は酒で体調を崩したわけじゃ――ッ‼」

 なんとか取り繕おうとするジェイドをほったらかしに、エイラが俺に聞く。


「確かにこれだけの料理にお水だけっていうのは、不釣り合いではあるのよね。なにか理由でもあるの?」

「理由なんかねぇよ。冒険者はいつも、どうやって生き残るのかを考えておくべきなんだ。だから、思考能力を低下させる酒なんざ飲む必要がねぇんだよ」


 そう。酒は思考力や危機感を失わせる。

 それは常在戦場の冒険者には自殺行為と言って然るべき――。


「ゼネスさんはお酒が飲めない。って、ジーナ様が言ってた。だから、気を使われたんだと思う」

 いかにして酒なんぞが必要ないものであるか。を説こうとしていた所へ、ケイトが爆弾を投げる。


「え? そうなんですか?」


 純粋なヨハンの眼差しに、

「・・・言ってなかったか?」

 嘘を吹き込むのは躊躇われた。


「意外です! 冒険者と言えば、お酒を飲むものだと思ってました!」

「ですが、言われてみれば確かに。あまりお酒を飲む理由というのはありませんね」

「そうね。私達も成人した時と社交界の時くらい? 最近はそういったパーティーにも顔を出してはいなかったけれど。だからかしら? 誰かさんが羽目を外しちゃったのは」

 エイラが面白そうな目でジェイドを見るが、当の本人は対照的なほど、つまらなさそうに返す。


「それは関係ねぇよ。あんなもん別に出たいとも思わねぇ」

「あら? 結構ダンスのお誘いもあったのに」

「だからに決まってるだろ。興味ねぇ相手からダンスに誘われて、なにが嬉しいんだ?」


 私はジェイド様にお誘い頂きたいですわ‼ と、くっつくキューティーをあしらいつつ、

「けど、飲む必要がねぇとは言っても、祝いの席とかでは飲むんだろ?」

 当然のように同意を求めてくる。


 が。

「おいまさか!」

 俺は答えない。

 誰があんなまずいもんを飲もうと思うか! 二度とごめんだ!


「ゼネスさん。初めて飲んだお酒が『スピリット・オブ・フレイム』だったって・・・ジーナ様が言ってた。それから一度も飲んでるところは見たことないって」

 それを聞いて、ヨハンを除く全員がドッと笑う。


「なんですか? その、スピリット?」

「『スピリット・オブ・フレイム』魂をも焦がす。と言う意味でその名前が付けられた凄く強いお酒よ。極め付きの酒好きでもなければ飲むようなものじゃないわね」

「教会のとある儀式で、とても大きな杯へ火をくべるのに使うというのは聞いたことがあります。お酒というよりは薬品に近いかと」


「それを薄めもせずに飲んで倒れたって・・・ジーナ様が」

「はっはっはっはっはっは‼ 酒飲んで体調崩してんのはどっちだよ‼」

「~~ッ‼ ジェイド様っ‼ いけませんわっ! そんなッ! 私達にゼネスさんを笑う権利などッ! ~~っ‼」


 人の失敗を。

 随分楽しそうに話すじゃねぇか? ええ?


 だが、笑ってられるのは今の内だ。

 最後の試練は直ぐ目の前。

 その時に泣きを―――って! おい! 笑いすぎで泣いてんじゃねぇか‼

 そこからは終始、盛り上がったまま就寝。


 そして。

 出立の朝日が昇る。

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