模擬戦 途中
今、俺が求めるのは結果だけじゃない。
そこに至るまでの過程。
はなから負けるつもりなど微塵もなかったが・・・それ以上に、あの二人に灼け付くほどの衝撃を与えなければならない。
なぜか。
それは求められたからだ。
そして、引き受けたからだ。
ならば、出来うる限りを尽くさねばならない。
それが冒険者の生き様なのだから。
だから、ここでやるべきは圧倒的な勝利。
冒険者になろうという、二人の追うべき理想たらねばならない。
だが、俺に・・・出来るだろうか?
全てを薙ぎ倒す力も持たず、そんな現実すらぶっ壊す才能にも恵まれず。
それを持つ奴らに紛れ、いい様に使っていたにすぎない俺に。
強かさだけでは夢を見きれず、賢しさゆえに現実を見てしまった俺に。
誰かに夢を見せることが出来るだろうか?
憧れなどになれるだろうか?
かつて、同じようにぶつかった壁が迫る。
夢を、憧れを抱かせた逞しき姿は、時の中で朽ちることなく依然として眼前にある。
「どぉした⁉ こんなもんかぁ‼」
「言ったじゃないですか? 色々と出来るんでね! どうしたもんか、ってねェ!」
「どぉしたもこぉしたもあるもんか、よぉ‼」
今日一番の横薙ぎを躱す。
「なんでもやってみりゃぁいい‼ そう、おしえてやったろう‼」
この人は・・・未だに俺の教官なんだな。
情けなくも、聞けばきっと答えてくれるんだろう。
「残念ながら! それじゃぁダメなんですよ‼」
違う。
それは俺のやり方じゃない。
教官のような強さはない。俺にも、あの二人にも。
だから習うんじゃない。それに対抗する手段を見せるんだ。
珍しいギフトも、何でもできる器用さも、それだけじゃ届かない。
「なら、どぉする?」
「それを今考えてんですよ!」
いずれ躓くだろう時、その時にそれを支えるのは理想の自分だ。
想いだけでは足りない、形があって初めて現実になる。
そのための入れ物が憧れなんだ。
「そんなんでいつまでもつんだぁ‼ ええ‼」
答えが気に入らなかったのか、攻撃が激しさを増す。
いつまで凌げるか。
確かにこのままではそのうち押し切られるだろう。
左右90度の一辺倒な回避をやめ、斜め45度の回避を混ぜる。
この”45度”回避は左右だけだった90度回避と違い、前後左右に回避する。
自分と相手の接点から斜めに抜けることで、相手の正面、真横、背後が空く。
基本的には連携時に多く使い、それぞれに味方が入ることで、牽制、囮、入れ替えなどの戦術に広がる。
通称”十字回避”。
一人で使ってもそれほど大きな効果は得られないが、選択肢ぐらいは作れる。
90度に避ければ、横移動を強制させられる分、相手の動き出しが遅くなる。これを利用するのが直角回避。
だが、これだけではフェイント一つで対策される。
そこで45度を混ぜれば、読み合いが発生する。
これが1対1の基礎になる。
そして、ここまでは二人に話してあった。
教官も知っている。
だからこれも、時間稼ぎに過ぎない。
どうする?
凶刃を捌きながら、その奥に二人が見えた。
その姿に幻影を見た。
幼き頃の弱い自分と親友だ。
どうすればいい? じゃない‼
どうしたいか、だっただろ‼
いつの間にか染みついた、現実への対処。
それは生きるために身に着けた必要なもので・・・。
だが、今は必要ないものだ。
なれる自分になりたいんじゃない!
なりたい誰かになれる自分が憧れなんだ‼
慣れて諦めた俺では夢にはなれないかもしれない!
それでも、幻ぐらいは作れるさ‼
「いつまでもは、付き合ってはいられないんでね! そろそろ・・・いきますよ‼」
やるべきことは決まった。
なら、見せるべきなんだ。
いつかの夢に、今を・・・。