異状有り以上に異常な移譲
「それにしても、言葉にならないね? この溢れるような魔力の脈動。これが飽和を超えた状態・・・魔力過多状態とでも言おうか。その感覚」
ジーナは自分の手を見つめながら嬉しそうに観察を続けながら、
「なにより、君の大切なものでこうなったのだと思うと、どうしても心躍るようだよ!」
見下ろすように胸を張る。
「ふざけやがって・・・っ‼」
っつーより、俺が跪いてると言うべきか。
初めから、どうせ無理だろうと決めつけ適当に魔力を送ったせいで、予想以上に持っていかれた。
結果として、俺の体は立ち眩みに近い症状を訴え、膝をついた。
当然ながら、ジーナの体にはそれだけの魔力が注ぎ込まれたわけだが、
「君は崩れ落ちたわけだけれど、私にはなんの異変も感じられないね? むしろ、平素より心なしか体調がいいような気さえする。久しく忘れていた、今なら何でもできるんじゃないかという万能感を味わっているくらいだ」
「それはそれで問題だろ。精神状態の変化も異常状態と言えなくはねぇはずだ」
表面上の問題はなさそうだ。
おかしい。俺の魔力を半分以上持っていかれたんだけどな。
「ふむ・・・まぁそうだね? けれど、これが毎回起こるのかどうかは今のところ確かめられそうにないから、検証は諦めようか。それより、君の方は大丈夫かい?」
「今さらだな。別にどうってことはねぇよ」
差し伸べられた手を取って立ち上がる。
「払い退けたりはしないんだね」
「そうして欲しかったのか?」
「まさか。ああ、でも。それはそれで楽しいかもしれないね?」
それのなにが楽しいのか、俺にはわかりそうもねぇが、わざわざ善意を無碍にしたりはしない。
冒険者は助け合う。
それが己の為だと知っているからだ。
それは引退したって変わるもんじゃねぇ。
「折角手を取り合ったんだ。ついでに、私から魔力を取り戻せるか、試してくれないかな?」
言われるがままに試してみるが、
「駄目だな。なにかしら、条件でもあるのかもな」
「確かに”繋がっている”とは感じるけれど、それだけだね。条件があるのだとしても、相当奇妙なものになりそうだね。一方的に送り付けるだけっていのは・・・」
魔力の移動はなし。
ジーナの言う通り、現状はかなり奇妙だ。
俺だけが魔力を他人に送り付けられる。
それ以外は一切不明。
少なくともジーナからは魔力を送れず、俺の魔力を吸収したわけでもない。
「後は受け取りの拒否が出来るかどうか、ぐらいだが・・・」
「それについては、そもそも”繋がっている”状態にならなければいいだけなんじゃないかな?」
「かもな」
あの状態はお互いが意識しない限り自然とはならなそうだ。であれば、無理に考慮する必要はないのかもしれねぇ。
「いやあ、しかし・・・」
「・・・なんだよ?」
ジーナがこう、ゲスっぽい顔で見てくる。
今度はなんだと思ったが、
「”繋がっている”状態というのは中々にエッチな表現じゃあないかい? まるで、全く別の秘め事のようで・・・しかも! しかもだよ? 私は君から排出された大事なもので体が熱くなっているだなんて‼ これはもう、とんでもないことなんじゃ――あ痛ぁッ!」
あまりにもふざけたことをぬかすので問答無用でぶん殴った。
「しょうもねぇこと言ってねぇで、この後どうすんのか決めやがれ‼」
「それは別の部屋に移動するかという――待った‼ そういう意味じゃないよ⁉ いや、少しはからかったけどね? そうじゃなくて、設備の整った部屋に行くかどうかの話だよ! もちろん研究のね!」
「まだ続ける気か?」
「おや? 私の心配をしてくれるのかい? それは非常に嬉しいのだけれど、今はこの謎の現象を、少しだけでも紐解いてしまいたいんだけどね?」
まぁ、そういう奴だとは知っているが・・・。
「つっても、その状態が安全かどうかもわかってねぇからな」
「ああ、この魔力過多状態のことだね? けれど、君にとっては半分程度の魔力だったとしても、私にとっては精々2割増しくらいだから、それほどの危険は感じないんだよね――と、失言だったかな?」
「別に嘘じゃねぇんだろ。腹は立つけどな」
「理性的で助かるよ。だからまぁ、このまま続けてしまってもいいんじゃないかなと、思うんだよ。それに、この魔力過多状態がいつまで続くのかもわからないし、自然に解消されるのかも気になるところだね? もし、魔力過多状態がいつまでも続くようなら、その時の体調の変化や、魔力過多状態で全魔力を消費する魔法を使うとどうなるのかも調べられるだろう? というか、仮で魔力過多状態と名付けたけど、さっきの繋がっている状態と合わせて名称を決めてしまおうか。呼び辛過ぎる‼」
片方は俺の責任もあるだろうが、もう片方はお前が勝手につけたんだろうが! とは言わないでおく。また話がズレていきそうだからな。
そして。
魔力が本来の量より多い状態のことを”超越”。
お互いの魔力がつながっているような感覚の状態のことを”共鳴”。
そう呼ぶことにしようと決まったんだが、
「共鳴は調べる過程で別もんだと判明する可能性もあるが、いいのか?」
「その時はその時だよ。そうなった時に、新しい名称を考えればいいのさ! 研究はこういった思い切りの良さも大事だからね!」
案外、研究者ってのは適当なのかもしれねぇ。




