訪れ5
――後日。
「そんじゃ準備はよろしいですね? まぁ、なにか忘れ物があったとしても、当商会は品揃えについて自信がありますから、御所望のモノがございましたら是非ご相談ください。では! 出発します‼」
「「「おぉ~!」」」
マンサ商会の隊商の出発進行に合わせてジェイド達が声を上げる。
向かう先は南の霊峰。
なぜこうなったのか・・・といえば、少し時間を遡る。
ジェイド達が慌ただしくギルドから出て言った後、俺はミリーとブロンソン教官に特筆封書の内容を明かし、ギルド本部のあるチャード集合国へ行かねばならないことを説明した。
「また~⁉」
「お前さん。ワシ以外にも師匠筋があったのか⁉」
2人は呆れたり驚いたりはしたものの。仕方がねぇってことに理解を示し、
「お土産待ってるからね!」
「帰ってきたら今度こそ、この書類の山の処理を手伝ってもらうからな!」
などの見送りの言葉で締めくくった。
であれば、善は急げ。
この封書も俺が実家に帰っている間に来ていたものらしいからな。まったりしてたら当該人物が勇み足でやってきそうなんで、1日でも早く・・・とサンパダの元へ顔を出した。
思えば、この時の反応からおかしかったんだよな。
「お待ちしてましたよ!」
が、俺を見たサンパダの第一声だったからだ。
これは当然、俺が来ることを予期していた発言に他ならねぇ。
だが、この後の会話と合わせて。俺は別の理由でサンパダが俺の来訪を待ち望んでいたのだと思ってしまった。
「――? 早速で悪いんだが、南行きの隊商はあるか?」
「そのことなのですが、誠に残念ながら今回は――」
「そうか。時間取らせて悪いな。他をあたる」
「いえ! そうではなく‼ ゼネス様は今、皇都で起きている問題についてはご存じでしょう?」
「御父上のことだな?」
「ええ! そのことであちこち大騒ぎ中ですから。今回の旅には、誠に残念なことに、私は同行が出来ないと言いたかったのです! 隊商については用意できます! ゼネス様が御同行くださるのなら安全ですから、私共も隊商を出さない理由はございません!」
「そこまでの安全は保証できねぇんだが・・・」
「皇都からの同行者でゼネス様を超える実力者はいませんので、それで被害が出るなら致し方ありませんよ」
「道中で護衛は増やさねぇのか?」
「短距離の護衛は割高ですから」
「結局、俺の責任は重大ってわけだ」
「一応は他の同行者も募集しますので、全責任を被せるつもりはございませんし、先程も申し上げた通りなにかあったとしても、それは致し方ないことだと理解しております。損害分を請求などはありえませんのでご安心ください」
「そこは心配してねぇよ。けど、そう聞くと余計に気が重いな」
「信頼をいただけているようで光栄なことですな。ですが、もし――この厚待遇がどうしても気になるとおっしゃられるのであれば、募集で集まった冒険者の方々の面倒を見ては頂けないでしょうか?」
「それぐらいなら、まぁ構わねぇが・・・」
「ただ、皇都の冒険者はどうしても未熟になりがちですので、南の霊峰へ向かうにはまだ早いと思われるような冒険者の方々が同行するかもしれません」
「C級以下は南の国境線を超えたらギルドの恩恵を受けられねぇと知りゃぁ、そこで諦めるだろ。B級以上なら連れて行くぐらいはなんとかなる」
「わかりました。では面倒をお願いしても良いということで、隊商の準備を進めさせていただきましょう!」
この時、すでにジェイド達はサンパダの元を訪れ、頼み込んでいたんだろう。俺が来たら自分達も同行しても良いと、言質とってくれと。
ったく、遠足じゃねぇんだぞ?
教育係を引き連れて旅立つ奴がどこにいる!
しかし、時すでに遅し。
俺達を乗せた隊商は何事も知らぬふりをして発進する。
それを止めるだけの言葉を、俺は持ち合わせてはいなかった。