訪れ4
「おせぇ‼」
「そりゃぁ悪かったけどよ。なんのようだ?」
「南の霊峰を目指すにあたって、注意すべきことや準備しておくべきものなど聞きに来たのですわ!」
「そういえば・・・その辺、詳しく話しちゃなかったか?」
「えぇ。ちょっと不親切じゃないかしら? ってことで、全員で聞きに来たのだけど、なにかあったの?」
「いや?」
「その割には、変な顔・・・してる」
ジェイドからキューティー、エイラ、ケイト――と、代わる代わる話すにしては、ちゃんと話が進んでるから変な気分になっただけだ・・・・・・とでも言えばごまかせねぇかな?
「適当な言い訳を考えていますね。ごまかそうとしても無駄だと思うのですが?」
「別に、大したことじゃねぇよ」
「本当ですか?」
「あぁ。もちろんだ」
リミアとヨハンには勘づかれたどころか、念押しまでされちまった。俺の顔はそんなに変だったか? そう聞きたいが、聞いちまったら隠し事がありますって言ってるようなもんだ。
「とりあえず、準備に必要なものと注意事項だったか? そっちの話をした方がいいと思うんだが・・・?」
先に元の疑問を解消すれば、俺の変顔なんて忘れてくれねぇかな?
「そりゃ構わねぇが・・・後で事情はキッチリ聞かせてもらうからな?」
憎たらしい顔でいうジェイドに加勢するよう、一同は一斉に頷いた。
どうしても変な顔の理由が気になるらしい。
御父上の話のせいには―――出来ねぇだろうな。
ジェイド達の目を見る限り、些細な嘘も許さないといった意思の炎が消える気配はなかった。
「わかった。じゃぁ手短に、結論から言うと。特別、必要なものも注意することもねぇ。いつも通り万全の準備と、丁寧な事前調査さえしてりゃぁいい。食料や薬が何日分あるのか。向かう先にはどんなモンスターが居るのか。天候や気候、地形がどうなってるのかを調べておけば、普通の旅となにも変わらねぇよ」
「・・・・・・それだけか?」
拍子抜けといった表情を見せる一同に今一度教える。
「南の霊峰だろうが、別の場所だろうが、冒険は常に危険なもんだ。忘れるな。慣れたつもりが一番危ねぇんだからな」
「「「ッ‼‼」」」
キュッ! っと引き締まる表情の中、リミアをしばらく見つめる。
「・・・なんでしょうか?」
「装備の祈祷は済ませてあるか? 普段着や肌着、下着なんかにも忘れずやっておけよ? お前らが行くのは山の上だ。季節にもよるが普通に寒かったりするからな」
「なにか・・・余計な事まで思い出したりしたのでは?」
「いいや。お前には祈祷を教えたよな・・・って、それだけだ」
決して貧相な体付きに服が張り付いた姿なんざ思い出しちゃいねぇ。
「そうですか。ではお言葉通り、帰ったらすべての服に祈祷を行います。絶対に!」
「あぁ、そうしろ。忘れねぇうちにな」
「リミア! 僕のもお願いできないかな⁉」
「私達のもお願いしたいんだけど・・・駄目、かしら?」
「それは構いませんが、流石に量にもよりますよ?」
意外と、上手くごまかせたんじゃねぇか? と思ったのも束の間。
「で? なにがあったんだよ?」
祈祷がどうのという会話に1人参加してなかったジェイドが俺を問い詰める。
「お前はリミアに頼まなくてもいいのか?」
「俺様の服は全部特注だ。快適性の為に、漏れなく祈祷も済ませてあるに決まってんだろ!」
チッ! ボンボンが‼
集まって話し込もうとしていた面子も、流されそうになっていたのに気付き、ハッ! と我を取り戻すような動作を挟んで、先程までと同じ、逃がさないという執念を瞳に宿す。
はぁ・・・。
ああいった手前、色々と恥ずかしいが――隠すほどのことでもねぇか。
「さっきも言ったが別に大したことじゃねぇよ。ちょっとギルド本部から呼び出しを喰らっただけだ」
あんまり食いつかれて粘られても面倒だ。
証拠とばかりに赤い封筒をヒラヒラと見せる。
なんだ、そんなことか・・・という反応を予想していたんだが、誰もそんなことを言わない。どころか、反応がない。
どうしたんだ? 窺うように目を開けると、なぜか丸く目を剥いて顔を見合わせている。
そして。俺が声をかけるより早く、
「すみません! 急用ができたので私達はこれで‼」
誰かがそう言い放つと同時に、蜘蛛の子を散らすように飛び出していった。
「え? あ、おい――っ⁉」
憐れなのは置いて行かれたジェイド。
最後に一人、追いすがる。
「なんだったんだ? あいつら・・・」
俺には、なにがなんだかさっぱりだった。




