我が儘だったのは1
ズラリと並べたのは重鉄鋼で作られた鎧及び、大楯と片手剣だ。
「なんで俺様の鎧が‼」
「皇都であった盗難騒ぎの時に盗まれそうになったっつーんで、先に引き取っておいたんだよ」
「盗まれなかったのかよ⁉」
「見た目以上に重かったせいで持てなかったんだとよ。落とした時の音で鍛冶屋が起きたから逃げたらしい」
「そういうことか・・・・・・じゃない‼ どういうことだよ⁉ 俺様に自由騎士になってもらうって‼」
鎧がここにある経緯は理解できたようだが、本命についてはまだ説明しなけりゃならないようだ。
「そのままの意味だ。自由騎士フリーダムの最大の特徴は全身を鎧重装。そいつは重鉄鋼で作られていて、本人が扱う分には羽のように軽いと言われていた。重鉄鋼にはそういう性質があるし、直接問い質したこともあるからまぁ本当だろう」
重鉄鋼はミスリルほどじゃねぇが魔力を通しやすく、ミスリルとは違って同じ魔力を通し続けるとその魔力の波長を覚えるっつー性質がある。
それを利用することで、特定の人物が魔力を通した時のみ、本来の重さが消えるという現象を引き起こすことが出来る。
「つまり・・・これを着て、そうなれってのかよ?」
「理解が早いな。それが出来れば、仮にも元S級冒険者と同じ芸当だ。誰だって認めざるを得ねぇし、お前自身も納得できるだろ」
「それはそうかもしれねぇけど・・・そんなの! いつになるんだよ‼」
「さぁな? お前の努力次第だ」
「じゃあその間、俺様にどうしてろって言うんだよ‼」
「いや、冒険しろよ。冒険者だろ?」
「どうやってだよ‼‼ アンタが言ったんだろ‼ この鎧は俺様にはまだ扱えねぇって‼」
そりゃ、あの時はそう言ったが・・・。
「お前はあの時のままじゃねぇだろ? 今なら扱えると思うから返すんだ」
「それ・・・本気で言ってんのかよ? 俺様達の教育期間が終わって、ずっと持ってても面倒だから今返すんじゃ・・・」
「本気じゃなかったら返さねぇよ。邪魔にはなるが、どうしても返して欲しいなら取りに来いと言えば、さほど面倒でもねぇだろ?」
なんつーか、ジェイドは俺様って割には自信がねぇよな? いや、失ったのか。蟻の時に。
それで。そこから盾職に転向させられて、単独での目立った戦果がねぇから自信を取り戻せないままでいる・・・ってことだとすりゃぁ、俺のせいだよなぁ。
だから自分自身が納得できる形を探してるのか?
「嘘か本当か。とりあえず着てみりゃわかるんじゃねぇか?」
「・・・それもそうだな」
鍛冶屋のバルシムが冗句交じりに作った鎧を脱ぎ、かつて俺に自慢した彼の冒険者からの賜い物を身につけるジェイド。
その重さに悪戦苦闘しながらも、慣れた手付きで鎧を纏い、特に問題もなく立ち上がる。
「どうだ?」
「・・・重い。けど、動けなくはない。振り回されもしねぇはず」
「鎧に魔力を流してみろ」
一瞬疑問の表情を浮かべながらも、ジェイドは言われた通りに魔力を走らせる。
「これ・・・⁉ 軽くなった⁉」
「それが重鉄鋼の本来の持ち味だ。鋼鉄のように固く、魔力を纏えば羽のように軽く、魔力を通してある分魔法にも強い。軽くしっぱなしだと吹っ飛ばされやすくなるのには注意が必要だけどな」
「そこまで軽くなってねぇよ・・・」
そんなわけがあるかって目だが、そのうち体験するだろう。
「で、こっちはなんだよ―――って⁉ おっ! もっ! てぇええ‼」
地面に転がったままだった剣をひょいと持ち上げようとして、腕を持っていかれる。
「ああ。その2つも重鉄鋼で作った剣と盾だ。ただし、そっちは加工の段階で軽くしてある。魔力を鎧にだけ集中させてみろ」
「くっ⁉ こう、か⁉ っと⁉⁉ うおぁ‼‼」
今度はさっきまでが嘘のように、仰向けにひっくり返りそうになっていた。
「軽い⁉ なんだよこれ‼」
「振り回すのいいが・・・気を付けろよ? すっぽ抜けるからな」
調子に乗ってブンブン振り回していたのが、言われたとたんにピタリと止る。
ちなみにだが、すっぽ抜かしたのはクライフだ。
「その2つは鎧とは逆に、魔力を込めると重くなるように加工してある。ぶつかる瞬間や斬る瞬間にだけ魔力を通して重くすることで、燃費よく戦える計算で作ったんだが・・・」
「失敗作かよ?」
「失敗作ではねぇよ! 盾の方は問題なかったしな。より良い装備になるまでは使ってた。ただ、剣の方は合わなくて使えなかった。お前なら問題なく使えるんじゃねぇかって、期待を込めて渡しただけだ」
「なにが問題だったのかは教えとけよ‼」
「戦い方と合わなかったんだよ。クライフは剣に魔法を付与して戦うから丁度いいと思ったんだが、アイツは戦闘中ほとんどずっと付与してるせいで常時重くて振れなかったんだ」
それなら通常と同じように魔力を込めた時に軽くなるよう作り直せばどうか? という話が出たが、試しに魔力を込めずに軽いまま振ったらすっぽ抜けたってのがさっきの話だ。
「なんだ。そういうことかよ」
自分には関係ないとわかるとジェイドは残りの盾を拾い上げ、そっちの軽さにも感心していた。




