side――カーナ
「いざという時、使えるかもしれないわね」
「なんのことだぁ?」
「アイツ・・・ゼネスのことよ!」
「やめというたほうがいい。ありゃぁなかなかの曲者だ。都合よく使おうなんざぁ出来るとは思えねぇなぁ」
「別に都合よく使おうなんて考えてないわ! ただ、あんな状況からでもアタシを助けたんだもの。これ以上は無理! ってなった時でも、頼りになるかもしれないでしょ?」
「確かに今回は味方になったようだが、次もそうとは限らんだろぅ? それに、今回のことでわかったんじゃぁないのか? 帝国と皇国のことを」
「それは・・・そうね。でも、いつもまでもこんな関係のままではいられないのよ。それはあなたもわかってるでしょ!」
「そうだなあ。だが、もう勝手なことはやめてくれ? じゃねぇと今度は心臓が止まっちまうからなぁ!」
がっはっは! と茶化すように笑って見せるけど、この1か月の心労については申し訳ない気持ちでいっぱいよ。
アタシの考えに唯一賛同してくれたのは、フリードリヒ。あなただけ。
なのに、そのあなたの言葉を無視して1人で皇国に来たのは失敗だった。
もっと上手くやれると思ったんだけど・・・・・・アイツが言うように、アタシは知らないことだらけだったわ。
でも、今回のことで多くのことを知った。
アタシを心配してくれる人がいて、アタシを助けてくれる人がいて、アタシになんか興味がない人もいる。
そんな当たり前のことを、身をもって知ることが出来た。
今度からはきっとわかる。アタシのことをどう思っているか。
だって。さっきまでは人前だから、なんて言って言葉遣いを気にしていたのに、今ではすっかり元の口調に戻ってる。あんまり器用には見えないんだけど、そういうところだけちゃんとしてるフリードリヒ。
そのあなたの普段から適当な態度は。アタシの意見を否定こそしないで、でも小言を聞かせては躊躇させようとするその言動は、アタシの自尊心を傷付けないようにしながら、間違いを正そうっていう最大限の優しさだった。
そして、それと同じものをアタシは皇国で感じた。
馬鹿にしたような態度で。呆れた物言いで。それでも、最後までアタシを守ってくれた優しさを。
だから、今度からは大丈夫。
態度だけでも、言葉だけでもない。
その裏にある気持ちさえ、感じ取って見せる。
「それなら、今後のことを決めなくちゃいけないわね? 北部からの干渉もあるし・・・」
「それなんだが――いよいよ大群が現れたらしい。場合によっちゃこっちにも要請が来るかもなぁ」
「それ本当⁉ まずいわね・・・帝都の方で止められないの?」
「さぁなあ? なにしろスタンピードなんざ、あんまり例がねぇからなぁ」
「しかもそれが頻発してるなんて、特例も特例ってことね。東の国は? どうなってるの?」
「混乱してる・・・としか言えねぇやな。帝国は元々侵攻国だ。向こうにとっちゃ敵なのは間違いねぇ。ただ、一部では恭順を示す連中もいてなぁ。そんで、そいつらが国の舵取りしてるもんだから意見が二分化しちまっててな」
「アイツが言ってた代理戦争ってそのこと?」
「姫様は知らんかったろうが、東の国は今。帝国派と皇国派とで大きく割れてんだ。そこへモンスターが~~といったところでな」
「協力は得られない、か。だったらやっぱり、皇国との関係をどうにかした方が早いわね」
「元が帝国のしてきたことのせいだ。そう上手くはいかんだろう。やるなとは言わねぇが、今回のことだってある。慎重にな」
「わかってる。ありがとう。でも、なにかあったら頼ってもいい?」
「そりゃぁ構わねぇさ! なんてったってぇおれぁ姫様のお付きだからな!」
「助かるわ。でも、本当にそんなでいいの? 一応は将軍なんでしょ?」
「明日は明日の風が吹く。何事も、縛られすぎてちゃぁ上手くはいかねぇもんさ」
「そういうもの? だったら今回のアタシの行動だって――」
「ありゃぁ縛られねぇどころか、糸の切れた凧だぜ。姫様。自由に動けねぇんなら、縛られてた方がマシだ」
「悪かったわね! 手ぐすねを引くのが苦手なのよ! アタシは‼」




