宗教とは
落ち着くだけの時間が過ぎて。
「それで、結局はどうなのでしょう?」
「・・・なにがだ?」
「本当に、ギフトは望んだものを受け取れるのでしょうか?」
この状況の中でよく・・・その心臓の強さは見上げたもんだ。
「まぁ、不可能だろうな。そもそも、それが出来りゃこんなに悩んでる奴もいねぇだろうよ」
「なぜそう言えるのでしょう?」
「時空魔法なんかの事故だ。よくある話だがな」
「事故・・・なるほど」
時空なんかの特殊な自然魔法は、ギフトによって扱えるかが決まっているといっても過言ではない。それほどに扱いが難しい。
それが故に、まだ自我の形成が十分でない幼児期には、そういったギフトを持つ子供による暴発事故が起きるんだ。
そして、その時点ではギフトが発現してないことも少なくない。
「では、なぜそんな団体が存在できるのでしょう?」
「要は思い込みを利用した詐欺だからな。すり込みみたいなもんだ。目の前で一度成功させれば、無能ほど信じて疑わない」
「そんなことが出来るのでしょうか?」
「やり方はいくつかある。劇場型、扇動型、預言型。典型的なのはこのあたりか?」
劇場型はいわばやらせだ。
悩んでいる客を装った誰かを用意し、その悩みを大勢の前で解決して見せる。そうすることで、あたかも本当のように見せかける。
扇動型は騙しの基本だ。
不安を煽ることで判断力を鈍らせ、解決策を用意することで選択しやすくし、それが正しい事かのように誘導する。
拒否すれば恐喝・脅迫などを行い、受け入れれば賢い選択をした、我々は仲間だなどと、安心を装う言葉で取り込む。
預言型は先の二つの要素を併せ持つ。
客を仕込んだり、不安を煽ったり、あの手この手を使うが、一番の特徴は少数でも実行が可能なところだろう。
占いなどの1対1になるような場所を作り周囲と隔絶することで、情報の真偽を隠しながら圧力を与えつつ、逃走を許さない・・・ということが出来る。
外部からの干渉を阻むと同時に、内部からの要求も拒む。
状況に合わせて形が変わるのも鬱陶しいところだ。
「それで信じると?」
「洗脳みたいなもんだからな。そういう次元じゃねぇのかもしれねぇな」
実際には、それらと合わせてギフトだとか精神系の魔法も使っているんだろう。
むしろ、そこまでしてでもやりたいことの方がわからないが・・・。
「まぁ・・・。くだらねぇ話はいいだろう。不快になるだけだ」
なんにせよ、俺達には関係のない話だ。
ヨハンも今さらかかわりたいとは思ってないようだしな。
話をしている間の表情が、そう言っていた。
「話を戻すぞ。ギフトのことだが・・・カタログは見たか?」
ギフトカタログ。
教会が販売しているギフトについて書かれた本だ。
ギフトには不明な点が多くその内容・効果についても、一人の一生ですべてを理解することは不可能と言われている。
教会はそれらの情報を集め一冊の本にする活動も行っている。
ギフトに関する新しい情報を提供することが出来れば、安くはない報酬が手に入るため、子供らのために・・・と死ぬ間際に自身のギフトの情報を売る者も多くいる。
競合相手がいないことから一家に一冊。と言われる程で、役所や学園などにも置かれている。
何気に大ベストセラーだったりするんだよな。
「当然です」
「はい」
「自分のギフトは載ってたか?」
「? はい」
「載っていましたが・・・それが?」
カタログというだけあって、あれには大量のギフトが載っている。
自分のギフトが載っていれば、それを信じて疑わない辺り・・・これも洗脳になるのかね?
「載ってたんなら構わねぇよ。それならある程度の能力や効果は分かってるよな? 気になることでもあるんなら言っておけ」
「その言い方だと載っていないことがあるのか、ということが気になるぐらいですが・・・」
「毎年と言っていいほど改訂版が出るんだ。そりゃあるだろ?」
「その場合、その人はどうしているんでしょう?」
「ギフトの情報をその都度教会に売って金蔓にしながら楽に生きるんじゃないか?」
一生分は厳しいかもしれないが、懸命に働く必要はなくなる。
「幸運なのか不幸なのか。難しい話ですね・・・」
リミアはおそらくそう珍しくないギフトなんだろう。
効果や恩恵が詳しく書かれていて、どうするべきかがわかる。というのが普通で、それが彼女にとっては幸運だったんだろう。
「生き方なんてのは自分で選ぶもんだ。幸せの基準もそいつ次第だしな」
「そういうものでしょうか?」
「僕は進化について聞きたいです」
出遅れたヨハンが会話終りを狙ってきた。
ちょっと中途半歩になってしまった感




