side――グラン3
そしてまた、私は驚かされている。
「人質の確保を最優先‼ ジェイドは前に出過ぎないでよ!」
「わかってる! キューティー‼ 右側から仕掛けろ‼」
「お任せくださいませ‼」
成人していようとも。まだまだ子供だと思っていた彼らが、軍の精鋭といえるゴルドラッセ直属の部隊相手に引けを取らない。誰の指示もなしに、自分達だけの判断でだ。
「分散、させる! 浮いたところを・・・狙って」
「わかりました。ですが、私の魔法の残滓に気を付けてください。感電します」
「おっけー、援護するよ。直線状には出ないように注意するね」
精鋭は4人の小隊。内1人は人質確保に回っているために実質3対6。
とはいえ、それだけで勝てるほど軍隊は弱くない・・・はずだ。
しかし、
「陣形を崩すな‼ 突撃されるぞ‼」
「密着されてるんだ‼ 文句があるなら押し返せ‼」
「魔法で対応しろ‼ それより、魔力障壁おせぇぞ‼ なにやってんだ‼」
「こっちは人質を奪われねぇようにも警戒してんだろうが‼ それぐらい自分でやれ‼」
小隊からは落ち着きが剥がれ始めていた。
理由は明解。
状況が押され始めたからだ。
見た目で侮っていた相手に、徐々に押し込められていく。
そんなはずがない! まだここから逆転できる‼
そう思うだけで明確な作戦や指示が浮かばない。
だからその責任を誰かに押し付けようとしてしまう。仲間であるはずなのに。
なぜか・・・?
自分はこれだけやってきたという自負があるからだ。兵士として、辛い訓練してきた経験があるからだ。
その中で、その時間があるからこそ、隣にいた誰かと自分を比べてしまう。
比較して。自分贔屓で考えてしまう。
俺は。私は。アイツより―――と。
それ自体を悪いことだとは言わない。だが、やるべきは今じゃない。
今やるべきなのは、自分に出来ること。それをやるだけだ。
状況を好転させるために出来ることを考えて実行する。それしかない。
そして、それが出来ていたのは軍の精鋭たる4人の兵士達か、冒険者たる彼らか。
答えはすぐに出た。
「ジェイド様‼」
「こっちは抑えた‼ ヨハン‼」
「はい‼」
2人の少年少女がそれぞれ1人ずつを抑え、声に合わせて少年が初級魔法を放つ。
「馬鹿が‼ こんなもんで――‼」
1人自由に動けた兵士が言葉の途中で闇に飲まれ、意識を持っていかれた。
「変化魔法⁉ こんなガキが⁉」
人質を取っていた後列の兵士が驚く間もなく、
「アクアプリズム!」
「サンダーバイト‼」
がぼっ⁉ と唐突に現れた水の牢獄に似た多面体に包まれたかと思うと、バチン‼ と足元を走る紫電が噛みつき失神させられた。
「人質は確保したわ‼ 後は好きにしていいわよ‼」
それと同時に。中央にいた少女がいつの間にか回り込み、捕虜を回収し、一気に畳み掛ける。
「ッ⁉ なめるなぁあああ‼‼」
ふっと我に返り槍を振り回すも、
「そのような槍捌きではお話になりませんわ。というより、これだけ広い間合いがあるというのに、近付かれては意味がないでしょう?」
華麗に避けられ、あっさりと叩き伏せられる。
「思ったり大したことなかったな」
最後の1人も見せ場のないまま。不用意に出した槍の穂先を打ち上げられ、よろめいたところに盾で殴り付けられ倒されたようだ。
ゼネスの教え子達は強かった。
その強い彼らは自らの正義に誓って、ゼネスへと力を貸した。
ゼネスのやってきたことが認められたのだ。そのことは嬉しい。兄として、弟が選ばれたことは素直にそう思えた。
けれど、
「やはり、かなわないな・・・・・・」
この口から漏れるのは矮小な己を表す言葉だった。
なぜなら、おおよそ私には一生をかけても出来ないであろうことが目の前で繰り広げられていたからだ。




